昨年の混合診療解禁の議論について思ったこと

 

 

伊賀内科・循環器科

伊賀幹二

 

 

 

 


昨年末、混合診療解禁についての議論があったころ、「混合診療解禁に反対と署名してほしい」との手紙がある団体から送られてきました。医師会をはじめとして、ほとんどの医療関係の団体は混合診療解禁に反対のスタンスでした。では、「混合診療とは何?」といえば、各人・各組織それぞれで異なるものを考えていたように思います。

議論するためには、混合診療の全体像が明確でなければ賛成も反対もできません。しかし、私をはじめとしてほとんどの医師は、混合診療について一部の知識しかもちあわせていません。一部の情報を基に反対・賛成も議論してもそれは各論にすぎません。

ひとつの制度の是非を議論し改革を考えるとき、企業では以下のような方法をとっていることが多いようです(図1)。

背景因子を含む制度の全体像みた上で、現行制度の欠点と長所を議論します。次に、新しい制度に変更する目的と方法、およびその阻害因子を議論します。改革が必要と判断し実際に行った新しい制度での結果を公表し、評価(検証)をおこないフィードバックして目標が妥当であったかを考えます。

図2(上左)では、従来の保険診療部分が減少し、保険外診療部分が増加して、結果として国民の負担が増大するという意味です。一方、図3(上右)では、現在の保険診療部分はそのままで、それに加えて保険外診療部分も認めるという立場となり、結果的に負担費が増えるひともいるということです。図2が本当なら保険適応を縮小して公的医療費を減少させるということとなり反対すべきであるし、図3が本当なら望ましいことです。医師会は図2を主張し、経団連は図3を主張します。

報道では、制度自体の賛成反対を決定する重要な情報であるどちらかの図を作為的に流すことにより世論を誘導できます。もしどちらになるか予想ができなければ、制度自体の是非より、予想について、その根拠を提示してどちらの可能性が高いかを先ず議論しなければなりません。

では、なぜこのような違いかといえば、予測の違いもありますが、お互いの信頼関係のなさからきているように思います。厚生労働省は、「医師はもうけに走って勉強をしない」と考えています。一方医師は、「厚生省は医療費削減のことしか考えていない」と考えています。過去に、「はしごをかけてみんなが登ったら、はしごをはずす」と表現されるような医療政策を多々行ってきた経緯があるからでしょう。本来は、両者ともにある程度の信頼関係をもって、「すべての国民が良質な医療をうける」ことを目標として議論するべきなのです。

医療費はどうあるべきかも関連する重要な問題です。医療費は高いのでしょうか?もし高いとすればどこに無駄があるのでしょうか?この分析なしに次にはすすみません。

また、医療の質についてはどうでしょうか?一般医が習得すべき胸部レントゲン、心電図、一般採血以外の各専門域の特殊検査は誰が施行するべきでしょうか?例えば、循環器領域なら心エコー図、ホルター心電図はだれもが施行してもいいのでしょうか?新しく開業した医師が、過去にどこでどんな研修をうけてきたか等の研修歴等を宣伝することが許されないことはむしろ悪平等ではないでしょうか?

各地の医師会は、生涯教育にも関与しなければなりません。現実に西宮医師会が主催、特に私たち内科医会は目標をきちんと定めて講師の先生方に実践的なお話をしていただくようにいろんな生涯教育のプログラムを実施してきました。しかし、毎回出席されるかたはほぼ固定の状態です。勉強したいひとは勉強するし、しない人は何もしないのが現状です。それを点数制にしてもあまり効果はありません。私は、学生や研修医を各診療所にローテートさせ、自分の診療を公開することでかなりの効果があがると期待しております。

医師会が実値医家のレベルをあげるようにこのような生涯教育をたくさん企画していることや問題のある医師に対して強い態度で望んでいることを新聞の半ページくらいに広告してもいいでしょう。そして、医師会は医師会員の利益を守る団体ではなく、国民の健康を考えているということを知ってもらえば、正論を主張すれば国民は医師会を支持するのではないでしょうか?

日本の医療の将来について、目標は同じであれば、医療関係者、厚生省の役員、国民が一同に介して、長時間かけて議論することによりより問題が明確になり解決策が浮かんでくるような気がします。その意味では、誘導ではないメデイアの役割はきわめて大きいと思います。