新しく研修医になられる人たちに

臨床実習が卒前教育でいくら取り上げられるようになっても、卒業直後の臨床能力は“どんぐりの背比べ”状態です。どんなに優秀な学生でも、患者さんをケアすることは到底できません。つまり、日本で医師国家試験に合格して医師免許を持つということは、いまから臨床トレーニングを始めるということです。これから約5年の臨床研修においていかにがんばるかが、みなさんの将来の臨床能力を決定するといっても過言ではないでしょう。

研修中にロールモデルたる先輩医師をみつけてください。そして、自分が勉強したことを目の前の患者さんに還元できる喜びを感じ、医師は一生にわたり勉強しなければならないことを体感してください。自分の病院だけでなく、おもしろそうな研究会があれば積極的に参加してロールモデルを探し、自分の勤務する病院のローカルルールを正しいと思わないためにも、他病院の研修医や指導医と交流してください。

知識を得るためには、教科書を読むことは必要条件です。それに加えて、最新の知見を学会やジャーナルで習得しても、その疾患を持つ患者をみたことがなければ治療はできません。例えば、使用すべき薬の量が権威ある教科書に記載されていても、1回も使用したことがないなら実際に自分がサインしてつかうことは恐ろしい、という感性をもってほしいと思います。よく効く薬ほど毒にもなるのです。

研修時代では忙しいので楽しくないと思うのではなく、毎日知識が増えてそれを実践できることを喜びと感じてほしいと思います。1年たてば、自分のえた知識・能力を学生や年下の研修医に伝えることにより知識が整理されてきます。それをくり返すことで、一生懸命教えてくれた指導医、生きた教科書であった患者さんに恩返しができるのです。二度とこない研修医時代を楽しんでください。