診断

狭心症は労作性と安静時、不安定と安定に分類される(表1)。

労作性狭心症では、労作にて狭心症が誘発されるもので欧米に多い型である。安静時狭心症は日本人に多く見られ、血管攣縮が関与する異型狭心症であり朝一番の運動時に発作が生じることが多い(表2)。不安定狭心症とは、発作の状態が不安定になってきている急性心筋梗塞に移行しやすい狭心症である。

狭心症の診断は病歴につきる。それゆえ、初心者が、胸痛から開始し、心電図等を用いたフローチャートから確定診断にいたることは不可能である。

狭心症患者の訴えとしては、「胸が圧迫される」、「胸に何かがのる」、「動悸がする」、「歯が浮く」等、様々である。プライマリーケア医として胸痛の患者を診る可能性があるなら、病歴による検査前確率を上昇させ、患者の表現が狭心症らしいかどうかを判断する能力が要求される。教科書を読むだけではなく、実際の狭心症患者から当時の病歴を再聴取することにより上記能力の修得を期待できる。

その知識があって、狭心症除外のための運動負荷テストや最近発達したMDCT(心臓CT)を依頼し、結果を評価することができる。例えば、午後の運動負荷テストやMDCTでは陰性であっても、異型狭心症を否定することはできない。

狭心症のような病歴であっても、診察で有意な収縮期雑音があれば、大動脈弁狭窄症や肥大型心筋症による狭心症症状を考慮する。

労作性狭心症を否定するにはかなりの負荷を必要とする運動負荷検査は、マンパワーがない一般診療所では危険すぎる。

MDCTは64列になって、すばらしい解像力をもち、動脈硬化性病変を非侵襲的に診断可能である。しかし、あまりにも多い被曝放射線量を考えるとスクリーニング検査には適さないであろう。

狭心症治療でやってはいけないことを表3に示す。

軽い狭心症という診断はありえない。狭心症と判断すれば、基本的にはその地図である血管造影は必須である。心電図は狭心症にそれほど強い武器ではない。心電図が正常であることは狭心症を否定することにはならないし、逆に症状がないが心電図のSTT部分の変化がある例では心電図が虚血パターンであっても、狭心症とは診断できない。

ニトログリセリンの頓服のみで経過をみるのは、狭心症ではないと思うが完全には否定できない時のみである。疑ったら確定診断する方向に考える。

 

治療

患者が専門医の診療を希望しなければ、不安定狭心症でない場合では表4のメニューで開始する。

ベータ遮断剤の投与は日本人に多い冠攣縮を悪化させる可能性があるので最初には使用しない。ニトロ剤で頭痛が出現することがあるが、2−3日で慣れることを伝えておく。この治療により血管攣縮の因子を除外できたなら、労作性狭心症に有効なベータ遮断剤を加えてもよい。ベータ遮断剤により運動能力を改善することが期待できる。

不安定狭心症と判断すれば心電図所見に関係なくすぐ専門医の受診を勧める。初発の狭心症や安静時の狭心症は定義上では不安定狭心症(表5)であるが、急性心筋梗塞に移行する危険はそれほど高くはない。

労作性狭心症がほとんどである欧米での安静時にも生じる不安定狭心症と、血管攣縮が関与する日本の安静時狭心症とは性格を異にする。一方、より軽い運動で狭心症が生じてきたり、労作のみならず安静時にも生じてきたり、短時間で繰り返し狭心症が生じたときは急性心筋梗塞に移行する確率は高く。アスピリンを服用させたあと、可及的速やかに専門医に治療を依頼する。

 

患者マネージメント

動脈硬化のリスク因子はできるだけ減少させる。コレステロールや血糖の管理については狭心症を有さない人に比して厳格にする。症状があり冠状動脈造影で狭窄や閉塞をみた直後なら患者自身が生活習慣を変えることができるが、一旦薬物療法等で症状が消失すればそれを長期に持続させるためには、医療関係者側からの励ましが必要となる。

不安定狭心症について説明して、そのようになれば急性心筋梗塞に準じた緊急で処置が必要であることを理解させる。

 

こんなときは専門家

狭心症は、専門医が診るべき疾患である。治療方針が決定されて症状が安定すれば、プライマリーケア医がみてもよい。

 

患者さんへの説明のポイント

「狭心症は専門医がみる疾患であり、専門医に受診していただくということ」を納得してもらうことが重要である。不安定な状態と判断したなら、受診時に症状が消失しているというのは、翌日に専門医を受診してもよいということではない。

狭心症の有病率が低い一般の診療所では、「狭心症ではない」と患者に安心させることも重要である。訴えから明らかに狭心症とは思えない例については、ある程度の検査をしたあと安心させる説明をする。大丈夫であるということを専門医に保証してほしいという患者の希望が強ければ、狭心症の可能性がほとんどなくても専門医受診を勧めたほうがよいだろう。同時に、動脈硬化のリスク因子を減少させる必要性を患者に了解させることは、かかりつけ医とすれば重要な役割である。

 

2008-1-8