診療以外における医師の役割

-地域における危険回避への提案-

医師の役割として、診察室で患者さんに病状や治療方法の説明、生活指導があります。地域の開業医として、病気をみることに加えて、明らかに将来何かおこりそうな時、予防医学として関与することは重要です。

さて、図1をみてください。これは当クリニック前の道路です。東西にわたり1km以上、幅70cmくらい、深さ50cmくらいの溝がみえます。東側(図2)では、草が生え放題で、そのなかに多くの吸い殻やチラシがみえます。ここは、かつて田畑のための用水路であり、雨量が増えたときの逃げ道?のために重要であったものです。

しかし、下水道が発達しほぼ田畑が消失した現在では、もはや存在価値はないように思います。それがあるために自宅に対する城壁の堀としての役割があると主張するごく少数のひとや、農業用水のための溝ということで何らかの補助金をもらってきた人間(もしおられたらの話)にとっては、現在でも必要なのかもしれません。

歩行のおぼつかなくなったご老人や、若くても酔っぱらった時にこの溝におちて骨折する可能性も十分に考えられます。目のみえない白い杖の人は、この道を通るとき道の真ん中を通っていきます。西宮の別の地域に住む私の患者さんは、夜に近くの溝に落ちた時、這い上がるのは大変だったといわれていました。その溝は幅が40cmにもかかわらず70cmくらいの深さでした(図3)。

これらの溝の管理責任は西宮市にあります。市の政策として、この溝をどうすればいいのでしょうか?処理にはお金がかかるから、大きな実害がなければそのままにしておくという選択しかないのかもしれません。しかし、死亡者はでていないが、けが人は結構あるし、危険であるので、私は善処してほしいと思っています。

まず、地域の福祉会に働きかけました。住民の共通の問題意識として、市に働きかけるということが必要であると思ったからです。私はこのような危ない溝はなかった奈良市の新興住宅都市に20年にわたり住んでいて西宮に帰ってきたものだから、どうしてもこのような溝に違和感を感じます。しかし、この地域に長年住んでいた方は、多くの人に尋ねてもそれほど危機感はなく、「そういえば、危ないですね」という程度です。そして、市からの返事は、柵をすることはできるが、それには地域住民全員が賛成しなければいけないといわれていたようです。つまり家に対する堀と認識しているごく少数の人を説得する必要があるということです。明らかに多くの住民に危険を及ぶ可能性の高いものを、個人の利害のためにとり取り除けないというのは問題ではないかと思いました。

私は、一番よいのはすべての領域でコンクリートの蓋をすることだと思っています。地域の福祉会には、市と強引に話を進める人がいないようだったので、私がかけあって市から説明にきてもらいました。

市には、安全科があるにもかかわらず、担当責任は道路管理課ということでした。彼らの主張は、柵をすることはできるが、コンクリートの蓋をしても凹凸になるため道路として広がることはないので、道路管理課としてはできないと。私は、道路を広げてほしいといっているのではなく、溝におちて大けがをするのが危ないから溝に蓋をしてほしいと。話は堂々巡りでした。

なぜかみ合わないかを考えました。3ヶ月ごとに内科医会が行っている医療におけるCPSClinical Problem-solving)カンファランスと同じように、放置したときの危険、柵をしたときの危険回避率について数字で考えようとしていましたが、彼らは深く考えていないのがわかりました。効果は二の次で、市として何らかの対策しているというジェスチャーであるという印象を強く持ちました。

個人で交渉するには限界があるので、医師会が推薦した市会議員である篠原正寛氏にメイルをだして面談することができました。いろいろ聞いてもらったけれど、「本年度の予算は決まっているし、、、、今後蓋ができるように活動します」という努力目標で議論は終わりました。私は、その気になればなんとでもなるのではと思いましたが、、。もし、誰かがこの溝におちて死亡し、新聞社が書き立てれば西宮全域に蓋がされるでしょう。

現在の医療費や医師勤務の問題も、医療難民が多くでて初めて行政の態度が変わるのでしょうか?地方に税金が委譲されても、考える習慣、アイデアをだして議論する習慣をなくしてしまった役所に期待できないのでは?と思う今日この頃です。私が開業をしながら市会議員に立候補できないだろうか?しかし、一人で市会議員になっても何もできないかもしれない。市長に立候補すればかえることはできるだろうか?毎日、この溝のたばこの吸い殻をひろいながら暗くなる毎日です。

2007年6月