基本的な心電図の読み方をマスターする

 

 

 

エッセンス

心臓診断における心電図の役割は、病歴と診察の情報があってはじめて重要となる。病歴と診察所見より疾患を想定しその心電図を予想することや、異常心電図の結果を心エコー図やその後の病態の変化等から評価することにより心電図判読能力が上昇する。

 


まず2つの心電図をみて

図1の2枚の心電図では、ともにV1-3T波が高くSTが上昇している。循環器専門医は、後者では高いT波が対称的であるため病歴の情報がなくとも虚血であると判定できる。しかし、研修医にこの2枚のT波の違いを判定できる必要はない。左図は、検診でとられた無症状の30歳男性の、右図は運動負荷中に胸痛を生じた異型狭心症疑いの52歳男性の心電図である。この情報があれば、循環器非専門医にも、前者は正常であり後者は貫璧性の虚血であると判断可能である。

心電図が正常であるということと心臓が正常であるということは意味が異なる。研修医にとっては、冷汗を伴った1時間持続する胸痛患者では、心電図が正常であっても急性心筋梗塞を否定できないので、時間をおいて心電図を再検するよりすぐに専門医に相談することが重要である。

 

心臓診断の過程と心電図の役割と検査前確立

病歴と診察から始まり、加えて簡単な心電図、胸部レントゲンを加えることでおおよその心臓診断を下すことができる。おのおのの検査の読影は重要ではあるが、診断に関すればお互いが相補的な役割を担っている。

心電図所見の感度・特異度で考えてみると、難しい判定基準を修得して感度・特異度をあげるより、病歴と診察から心電図の特定の疾患に対する検査前確率を上昇させる方が重要である。つまり、患者の性別、既往歴、病歴と診察から可能性のある診断を考え、心電図にはどんな所見を期待できるのかを考えながら心電図をとることにより診断能力が上昇する。

 

順序立てた読影方法

 

図2では、QRSの前にスパイクがあり、QRSが左脚ブロックであるということから、多くの研修医はこの心電図をペースメーカリズムというだろう。しかし、II,IIIaVF70/分の上向きのP波(矢印)が記録されていることから、心電図診断は正常洞調律、完全房室ブロック、心室ペーシングということになる。

心電図を修得するためには、順序立てた読み方を習慣づけること、パターン化された心電図診断ができること、その心電図診断から想定する疾患を除外できるのか、肯定できるのかを考えることが必要である。

 

心電図からわかること

現在の心電図の判断基準は、過去の剖検データである。左室肥大や拡大の程度は負荷のかかっていない左室拡張末期で評価するので、心エコー図をゴールドスタンダードにした新しい基準が必要となる。

心電図から前下降枝の何番が何%狭窄であるかを判定はできない。心電図は心臓の診断ではないので、用いる言葉は一定にするべきである。

STの水平下降やT波の陰転化は、R波が高くなければ虚血、高ければ肥大と分類される。私は左室肥大ではなく、左室肥大パターンという言葉を用いる。左室肥大において、左室の圧負荷と容量負荷ではSTTの形が異なることが多いが、非専門医にとっては左室肥大の判断のみでよい。その原疾患とすれば、左室拡大や左室肥大を呈する疾患であればどんな疾患でもありえる。心エコー図による左室の容量、左室壁厚、収縮率等の測定してはじめてその答えを下せる。心電図が正常範囲でも軽度の左室肥大や左室拡大がありえる。症状があったり、聴診で異常所見があったり、胸部レントゲンで心臓拡大があれば、心エコー図による判断が必要となる。

左房肥大で右軸変位があれば、心電図クイズでは僧帽弁狭窄症が考えられるが、1枚の心電図からそこまで考える必要はない。S2が大きく分裂し(S2+OS)、胸部レントゲンで左房拡大がみられれば、その所見から僧帽弁狭窄症が鑑別診断にあげられるからである。

心電図検診が発達した日本では、肥大型心筋症は心電図異常で発見されることが多い。しかし労作による胸痛を訴える例はめずらしくない。一定の労作で胸痛が生じるが、不安定でない時、虚血性心疾患と考えれば心電図には正常を期待する。もし著明なSTT変化をともなった左室肥大なら、肥大型心筋症による胸痛が考えやすい。

図3でみられるV2からV4T波陰性例では、30〜60分くらいの胸痛後数時間であれば一時的な虚血を、まったく症状がなく昨年もおなじように異常をいわれているなら正常心臓を、最近労作にて息切れが出現しておれば肺塞栓を考える。

 

 

新人研修医へひとこと

病歴や診察をきちんとしてから、検査の目的を説明できるロールモデルとなる先輩医師を見つけてほしい。到達目標を考えた研修をして、日々知識が増える喜びと感じてほしい。1年たてば、自分の得た知識・能力を学生や年下の研修医に伝えることにより知識が整理され、一生懸命教えてくれた指導医、生きた教科書であった患者さんに恩返しができる。しんどいかもしれないが、研修時代にしかできないことは多い。二度とこない研修医時代を楽しんでほしい。

(私は、いまでは、日々知識・能力が増えていったことを実感した研修医時代がなつかしい。)  

 

 

Further reading

循環器診療スキルアップ   伊賀幹二  CBR

 

著者プロフィル200

開業して7年たち、その間、兵庫医大で循環器内科にローテートする学生に診察の実際を講義させていただいている。彼らに病歴・診察の重要性や、基礎を教えれば短時間できちんと正常所見をとることが可能であることを実感させることにより、目が輝いてくるのをみると自分もうれしくなる。はたして、医師になったとき、この経験が生かされているか、もしくは診察しない周りの先輩医師人が「負の場の強制力」となり、病歴・診察の重要性を認識できない医師になっているかを評価して論文としたい。

 

MEMO

 

Q

V5-6誘導でSTが下降、T波が陰性のとき、この心電図から狭心症を疑えるか

 

A

心電図では虚血パターンであるとはいえても、狭心症とはいえない。狭心症に合致する病歴がなければ、左室肥大を表している可能性が高い