ぼやき漫才は効果があるでしょうか?

集団生活では、個人生活と異なり何らかの規則や制度が必要になります。それによって、その社会にいる人々が快適に生活することができます。しかし、どんなすぐれた規則や制度であっても、社会がどんどん変化していけば陳腐となり、見直しが必要になります。

制度の改革を考えるとき、以下の4つのことを考える必要があります。

1)現在の制度の長所と問題点を、その全体像をとらえながら分析すること、2)改革する目的を明確にし、改革を阻害する因子を検討すること、3)改革の方法を検討すること、4)得られた結果を検証(評価)し、フィードバックとして改革方法を改善することです。

これに基づき、昨今政府から発表された医療制度の改正案について考えてみたいと思います。まず、現在の医療制度の長所と問題点をきちんと分析ができているでしょうか?「医療費が高い」ということが前提になっていますが、それが妥当かどうかの議論はあったのでしょうか?も仮に医療費を高いとするなら、どの部分が高いのでしょうか?同時に、誰もがいつでも安い(?)値段でどの病院でも診てもらえるために必要な、安い労働力として見なされている研修医制度も考え直さなくてはなりません。

私自身も現在の医療制度の全体像を理解できているわけではありませんが、少なくとも、死生観のない終末医療、数年前までは行われていた治験に対する保険診療、医療器具の3倍から4倍の内外価格差が医療費高騰の原因の主と考えています。加えて、高度機能病院の医師には、特定疾患患者なら個人負担がないため多少アカデミックな検査をしてもよいという暗黙の了解があることも事実です。

次に改革するなら阻害因子はなんでしょう?既得権を主張する団体がいるのはどこの社会でも同じです。それを説得させるには、きちんとしたデータ、分析が不可欠でしょう。

「現行の老人医療を75歳からとし、健康保険本人の個人負担を3割にする」という改正案は、既得権を主張する団体にはむかうより、とりあえず医療費を下げることを目的とするなら簡単に施行できる方法でしょう。たぶん、この政策により倒産する医療組織がでてくるでしょう。構造改革をしない限り社会はよくならないので、競争原理に基づき「例外なく痛みを受けてもらう」のはよいと思いますが、ある制度の全体像をみすえた問題点と長所をきちんと国民に情報公開していないということで、私個人としては賛成しかねます。一方、このようなことに対して、国民も問題点をあげられるくらいには成熟する必要があります。

現状分析目的方法結果を検証しフィードバックというのは、どんなプロジェクトにおいても必要ですが、残念ながら日本では、前例踏襲、臨機応変という言葉により蓋をされており、私は毎日ぼやいております。

インターネットで世界の情報がどこからでも得られる現在、日本国民も組織も、村社会的な考え方から脱却する必要があると思います。

 

2001-12-1

伊賀幹二 伊賀内科・循環器科