血圧変動について

規則的な生活、毎日の運動と本人が耐えられる程度の減塩食にもかかわらず家庭の血圧が150/90mmHgを常時越えるなら高血圧治療の対象となります。脳卒中、心筋梗塞といった生活習慣病の危険因子の一つである高血圧の治療目的は、一生薬を飲み続けて、平均血圧を下げることで、生活習慣病の危険度を正常人近くにまで下げることです。効果は5年単位で見るべきで、今日から治療したので、あすから元気になるというものではありません。

血圧治療を考える時、人間の血圧の特徴を理解しなくてはなりません。血圧は緊張すれば上昇しますし、リラックスすると低下し24時間一定の値をとりません。また、生理的に1日のうちで朝が少し高くなります。30mmHgくらいの血圧の変動は生理的ですが、高齢となって動脈硬化が強くなるとより変動が大きくなります。

白衣高血圧症という名前があるように、特に緊張される方では、大病院での初診の際に通常より40mmHg以上高くなることはよく知られております。それゆえ、病院での血圧値を対象にして高血圧の治療はできません。簡単に家での血圧測定ができるようになってきました。例えば、病院ではいつも170mmHgである高齢者の患者が、家での血圧が120mmHgまでであったら、降圧剤を投与することにより血圧が下がりすぎる可能性もあるのです。このように家庭で血圧を測定することは血圧治療の観点から考えると重要です。

しかし、そのための弊害もあります。血圧を簡単に測定できますので、しんどくて血圧が高ければ、「しんどいのは高血圧のせい」と考えられがちです。しかし、普段130mmHgの血圧の方が、170mmHgに上昇したからといってしんどくなることはありません。基本的に収縮期血圧が200mmHgになっても、そのための症状はほとんどないのです。むしろ、かぜや胃痛等の別の原因でしんどいために交感神経が緊張してある種のホルモンをだし、血圧が一時的に上昇している可能性があるのです。症状がなければ、頻回の血圧測定で、一喜一憂するのは望ましいことではありません。そのような場合は、むしろ血圧を測定しない方が健康的であると思われます。

 

伊賀幹二 伊賀内科・循環器科