めまいの患者では病歴・年齢・基礎疾患に注意 

はじめに

医療従事者が患者の訴えを“動悸”や“胸痛”という言葉に置き換えてしまうと考えられる疾患は限定される。患者の表現は多彩であり、発作性心房細動を動悸ではなく胸痛と訴えることもある。胸痛という訴えからその鑑別診断を考えると診断を間違う可能性がある。同様に、“めまい”というのは一般の言葉であり、「めまいがする」と訴えるなかに心疾患が含まれている可能性がある。

めまいの診断には、回転性かどうか、起立した時にのみ生じるのか、吐き気や耳鳴りは伴っているか、持続時間はどれくらいか、めまいの前に胸痛や動悸のような前駆症状はないか、等の病歴聴取がきわめて重要である。次いで、系統立てた全身診察はもちろんのこと、どこの外来でも可能な心電図、胸部レ線、一般採血は診断のための必須項目である。

回転性めまいであれば心疾患の可能性は少ない。心疾患が原因であるめまいは、何らかの原因で一時的に心拍出量が減少したために生じ持続時間は通常1分以内である。失神に至らない程度のものをめまいと表現することが多い。

心疾患によるめまいはすべてレッド・フラッグサインと考えられ、放置すると死に至る可能性があるので、循環器専門医がきっちりと診断し、経過を観察しなければならない。

原因として頻拍性不整脈、洞停止、心臓内の機械的狭窄の3つが考えられる。

 

頻拍性不整脈によるめまい

肥大型心筋症では、心室性不整脈が頻発すればめまいが生じえる。心疾患や突然死の家族歴の有無は診断に重要である。心電図検診が企業で広く行われている現在では、過去に心電図異常を指摘されていることが多い。

QT延長を伴う多形性心室性頻拍症は心源性めまいの原因の一つであり、抗不整脈薬や向精神薬をはじめとする薬剤投与によりおこることが多い。図1上段は術後の譫妄状態に対する向精神薬投与後に頻回にめまいを訴えた70歳の女性の心電図である。この場合、治療は抗不整脈薬ではなく、100/分での右室ペーシングである。

また心機能が低下している患者が心不全傾向になると、心室性期外収縮が頻発する。図1下段のような心室性頻拍症が生じるとめまいを訴える。すべての抗不整脈薬は心筋抑制に働くので、この場合も心不全の治療を行わないで抗不整脈薬のみを投与すると心不全を助長することとなる。

異型狭心症では発作時に心室性期外収縮が頻発することがありめまいを訴える可能性がある。めまいの生じる前に胸部圧迫感があり、それが朝の一定時刻であれば異型狭心症も考えられる。

図2は数秒のめまい発作を繰り返し入院したため緊急入院した44歳女性の心電図である。V1-2の特徴的なST上昇からブルガダ症候群を疑われ、専門病院で電気生理検査により心室細動が誘発され、埋込み型除細動器が埋込まれた。循環器専門医以外の医師も、突然死をおこしえるブルガダ症候群の存在の認識が重要である。

数秒程度のめまいを頻回に訴えるときは原因として上記のような不整脈の可能性があり、心電図モニターにてチェックする。ホルター心電図は可能性のある不整脈をみつけることができれば有用であるが、とらえられないとき否定はできない。

洞停止によるめまい

図3は速い動悸のあと、瞬間的なめまい感じを訴えた68歳女性の心電図である。発作性心房細動からの洞調律復帰時に、洞房結節からの刺激が一時的に抑制されたため4秒の洞停止がみられた。また、房室ブロックが加齢や薬剤により進行し4秒以上の洞停止があればめまいを訴えることもあるが、この場合では、前駆症状はない。

心臓内の機械的狭窄によるめまい

高齢者で頸部に放散する収縮期雑音があれば大動脈弁狭窄症によるめまいも考えられる。このめまいは運動後であることが多く、これが存在することは大動脈弁狭窄は高度であり手術の適応であることを意味する。ドプラ心エコー図により確定診断できる。

左房粘液腫は腫大すると、体位により腫瘍が僧帽弁口に嵌頓し失神や、軽ければめまいを生じることがある(図4)。頻度は少ないが、手術により治癒できる可能性のある疾患なので診断の見逃しは許されない。病歴と診察所見から存在を除外することは難しく、心エコー図でスクリーニングを行う。

まとめ

1.患者表現は多彩であり、軽度の失神をめまいと表現することもある

2.典型的な回転性めまいであれば、心疾患の可能性はきわめて少ない

3.回転性以外のめまいであれば、現在では心電図、胸部レントゲン、一般採血に加えて心エコー図は必要である

4.ホルター心電図で不整脈がみつけられれば診断できるが、1回のホルター心電図が正常であっても症状があれば疾患がないとはいえない

5.頻発する心室性期外収縮をめまいの原因と考えたとき、みだりに抗不整脈薬を投与しない

 

図1:上段は多形性心室性頻拍症で、下段は単形性心室性頻拍症である

図2:ブルガダ症候群に特徴的なV1-2のSTの上昇がみられる

図3:発作性心房細動からの回復時に4秒の洞停止がみられる

図4:左房粘液腫では拡張期(右)に僧帽弁口に腫瘍が入り込む