ポイント

1.   病歴を時系列に聞くことができる

2.   頚静脈圧の評価ができる

3.   ギャロップリズムをききわけられる

4.   心電図、胸部レ線を読影できる

5.   心エコー図の有用性と限界を理解する

6.   総合的な心臓の診断が可能である

 

 

外来でできる重要な臓器機能の評価 循環器編

「この患者さんの心機能はどうですか?」と指導医に質問されると、多くの研修医は、「心エコー図での駆出率は60%です」や「BNP200pg/mlです」と答えます。この原因の一つとして、指導医は、研修医に診察の所見を正すことより心エコー図やBNPのデータを研修医に要求するため、研修医も検査せざるをえなくなったことが考えられます。一方、研修医を指導している循環器専門医のなかには、初診患者に対して、診察前に胸部レントゲン、心電図、心エコー図を三種の神器として依頼される医師が少なからず存在します。つまり、指導医自身が、患者の病歴と診察所見から心臓の状態をある程度評価するということをできずに、他の検査に頼っているというのが現状です。このような環境下における研修医は不幸としか言いようがありません。

この項では、「プライマリーケア医(PC医)にとって外来でできる重要な臓器機能の評価 循環器編」というスタンスでの心電図、胸部レントゲンの説明を考えています。したがって、循環器専門医にとっては少しいいきりすぎることを許していただきたいと思います。

診断学を論理的にいかに熟知していても、「きちんとした医療面接により患者から病歴を聞き出すこと」、「正常所見を含めた身体診察法を習慣化し、異常所見を検出できること」を卒前教育および卒後研修として習得しなければ本題の目標を達成することができません。

心臓の診断は、医療面接、身体診察に加えてどのこの診療所でもほぼ可能な、胸部レントゲン、心電図、一般採血にて総合的に行います。PC医として心臓を評価するなら、心電図・胸部レントゲン検査の読影に習熟することは必須です。もちろん、正確な左室収縮機能や拡張機能を評価するのであればドプラを含む心エコー図が必要になりますが、心エコー図についてPC医が知らなければならないのは、むしろその有用性と限界です。

病歴では、「平地を歩けるか?坂道を歩けるか?」が重要であり、心不全患者では、夜間に何度トイレに行くかは必要な情報です。身体所見では、頸静脈の拡大の有無、およびギャロップリズムの有無が重要です。心拍が絶対不整脈を呈する心房細動例では、症状がなくとも左室機能が障害されている可能性があります。しかし、診察時にギャロップリズムがなくともレントゲンで左室拡大があれば、左室の収縮機能が著明に低下している症例もままならずあります。

胸部レントゲン検査は肺うっ血を診断するのに最も感度の高い検査です。しかし、不十分な吸気下では心臓が横位となるため心胸郭比は大きく、評価困難であり、逆に心胸郭比が正常であっても左室拡大がある例もあります。1回の胸部レントゲン像のみではある種の肺炎と心不全は鑑別困難なこともあり、炎症所見の有無や、経過観察で鑑別せざるをえないこともあります。

左室壁運動を心電図から推定するのは難しいですが、ST、T変化を伴った左室肥大例、特に幅広いQRS間隔を呈する心室内伝動障害例では左室機能がかなり障害されている可能性があります。完全左脚ブロック例でも、左室機能が障害されていることがありますが、完全右脚ブロックのみでは左室機能は障害されていません。心電図で著明な左室肥大を示すが、血圧が正常で症状が全くない例では、肥大型心筋症が考えやすいと思います。心電図が正常であっても、軽度の左室収縮障害はありえます。しかし、無症状の拡張型心筋症がどのような進展するかを見るのでなければ、そのような症例をPC医が見つける必要がないのかもしれません。

以上のことから、症状がなく頚静脈の拡張やギャロップリズムがなく(この所見を検出できるという前提であるが)、心電図、胸部レントゲン像も正常なら、左室機能は良好と考えてそれ以上の検査をする必要はないと思われます。逆に、労作性息切れ等の症状のある例、心不全を疑う所見がある時、胸部レントゲンで肺うっ血も否定できない時、心拡大がある時、心房細動例、ST、T変化を伴った左室肥大例、右脚ブロックを除く幅広いQRS間隔を呈する例では、左室機能を評価するために一度は心エコー図を施行する必要があると考えます。

 

2001-11

伊賀幹二

伊賀内科・循環器科