内科認定医に対する循環器疾患の到達目標(私見)
内科専門医であるがsubspecialityではない医師に対する各診療科の到達目標のコンセンサスはない。指導医自身がどこまで教えるべきかということについての哲学をもたず、その科を将来専攻しようとしている医師と、将来専攻しない内科医師と区別なく同じことを教えていることが多い(何を教えるべきかを知らないのか、研修医にとっても専門的な検査の習得を本当に必要と思っているのか、基本的な事を教える能力や時間がないのかはわからない)。
下記の到達目標は、内科専門医で循環器をsubspecialityとしない医師にとっての私が考える到達目標である。検査を読めることより、検査の適応限界のほうが大切であると考えている。このレベルは内科専門医がの生涯教育として知っておくべきレベルであると考えており、教える指導医側も、自分の専門以外のことについては研修医レベルを目標として生涯教育を受ける態度と努力が必要である。本院の内科専門医(卒後10-20年)のかたにアンケートを行ったが、すこし高すぎるとする医師もいた。基本的には、このような到達目標は、非専門医が作成すべきと思われる。
心疾患の診断の実際
心臓の診断は病歴、身体所見、心電図、胸部レ線の4つのどこでも可能な検査に加えて、心エコー図により総合的に診断を行う。近年、カラードプラー心エコー図の普及によりエコーは特殊検査になりつつあるが、いま論じようとしているエコー検査とは、古くから存在する断層心エコー図のことであり、カラードプラや経食道エコー検査ではない。
一般目標
1.病歴、身体所見、心電図、胸部レ線、一般検血を組み合わすことにより疾患を推定でき、緊急性の判断を下せ、初期治療が可能となること。慢性疾患であればその治療目標を明確にできること。これらは研修医の時代に習得すべきこと。
2.カレントトピックについての知識を持ち、常に情報を更新し、患者に役立つことは応用していく態度をみにつけること。これは生涯教育として一般医が医学知識として知るべきこと。
個別目標
自らが可能であること
患者の病歴を時系列に記載できる(患者の意識が明確でない時は、家族又はつれてきた人からとる)患者の既往歴のうち、現症と関係のあるデータを収集できる
心筋虚血による痛み、解離性動脈瘤による痛み、気胸による痛み、肋膜炎による痛みを鑑別できる夜間呼吸困難、労作時呼吸困難の病歴を聴取できる
動悸の病歴を聞きその原因が推定できる
意識消失に関して必要な病歴をとり、診断にせまれる
代表的な弁膜症(AS、AR、MR、MS)の自然歴を理解する
各心腔が拡大する原因を理解する
1 弁膜症の病因を系統的に述べることができる
2 ショックの鑑別診断と初期治療ができる
3 順序立てた身体所見の取り方を習慣づけ実践できる
4 静脈圧が推定できる
5 バイタルサインの意味を理解する
6 ギャロップリズムを検出できる
7 3/6度以上の心雑音を検出できる
8 KW分類で3度以上の高血圧眼底を評価できる
9 来院した患者の病歴、身体所見から緊急性の有無を判定できる
10 心電図を順序よく読影できる(各クライテリアに準ずる)
11 心電図の限界を理解する
12 ホルター心電図の結果の解釈および有用性につき理解する
13 運動負荷心電図の有用性、限界、危険を知り、high risk以外の患者では、自分で施行し評価できる
14 胸部レ線で、どの心腔が拡大しているのか、肺うっ血があるかを判断できる
15 断層心エコーで、右室の拡大、左室壁運動の大まかな異常、および大量の心嚢水を検出できる
16 心エコー図(ドプラーも含む)の有用性と限界を理解する(ドプラー弁膜症を理解する)
17 緊急CTの適応を理解し、解離性動脈瘤が読影できる
18 ある患者をみて、蘇生(CPR)になりそうかどうかの判断をつけられる
19 ルーチンの心臓カテーテルの有用性と限界を理解できる
20 うっ血性心不全を診断できる
21 うっ血性心不全の通常の原因を述べることができる
22 特殊な心不全(AS,HOCM)や挿管治療が必要な例以外では、ニトロ剤、イノバン、利尿剤を使った初期治療が可能である
23 中心静脈を確保できる
24 高血圧の治療目的を述べることができる
25 2−3の降圧剤に精通する
26 不安定狭心症を診断できる
27 緊急カテーテル検査が必要か否かを判断できる
28 狭心症を初期治療できる
29 心筋梗塞を診断でき、うちhigh risk groupを選出できる
30 肺塞栓の診断および初期治療ができる
31 PATを停止できる
32 Pafに対して初期治療ができる
33 無害の不整脈につき患者に説明・納得させることができる
34 準緊急に電気的除細動が必要であるかどうかを判断できる
知識として知っておくべきこと
1 心エコーにおいて、疣贅の有無、左室流入波形のA/Eの比、カラーの広がり等、弁逆流の流速から得られる情報等につき、心エコーをとった人間からのアドバイスを理解できる
2 経食道心エコーで診断できること、および危険について理解する
3 右心カテーテル検査では自らできる必要はないが、データーから現在の患者の状態を把握できる(Forrester分類)
4 冠状動脈造影を、自らできる必要もないし、読影する必要もないが、専門医が読影する冠状動脈造影の解釈ができる(3VD,LMT等の意味)
5 ペースメーカーの適応を理解する
6 MRI検査とは、縦にも断層が可能であること、ペースメーカ挿入者は受けられないことを理解する
7 PTCAの種類と合併症、どんな患者がbenefitをうけるかを理解する
8 心筋シンチの有用性と書かれた所見の解釈ができる(自分で読影する必要はない)
循環器内科 伊賀幹二 天理よろづ相談所病院 2000-7-21