花の白山(平瀬道より)

【登 山 日】 2005年7月28 日(木)〜29日(金)
【メンバー】 芳村嘉一郎、芳村和子
【コースタイム】

28日 平瀬道登山口09:10…大倉山12:10〜12:20…カンクラ雪渓13:55…室堂15:15
29日 室堂04:30…御前峰頂上05:15〜05:40…室堂06:15〜07:45…大倉山避難小屋 09:00〜09:05…大倉山09:08…大白川へ2q標識10:00…登山口11:00 


 15年ぶりの白山である。今回は平瀬道から登ろうとネットで情報を集め、室堂の小屋に予約を入れる。最初予定した26日には台風が関東地方を襲ったので、二日間遅らせて28日の出発。4時半に家を出る。名阪亀山SAで持参した朝食をとる。蟹江から一宮まで少し時間がかかったが、後は順調。東海北陸道荘川ICから国道156号線で御母衣湖畔を走り、ロックフィル式ダムと合掌造の遠山家を横目に見て、平瀬から県道を大白川沿いに遡る。白水の滝は帰りに見ることにして、大白川ダム近くの木立の緑に囲まれた野営場に直行する。家を出てから4時間半、思ったより早く到着できた。
登山口前の広場はすでに満車状態で、少し先の白水湖畔に車を置く。ここにも何台かの車が並んでいて、すぐ隣の車からも夫婦連れが出発していった。私たちも身支度をして「ようこそ白山国立公園へ」と書かれた鳥居型のゲートを潜り、すぐ先の左手にある休憩舎で登山届を提出する。すぐに急な階段道となり、快晴の空から照りつける真夏の太陽に、たちまち額から汗が滴り落ちる。しかしブナやミズナラの原生林の日陰に入ると、吹く風もひんやりして心地よい。急な階段道となだらかな登りの繰り返しで、木の間越しに見える湖面がぐんぐん低くなる。
一時間近く登ると、大きな立枯れの木にびっしりとツルアジサイが巻き付いて、白い鎧を着けたように見える所に来る。休憩場所を探していると、日陰で先ほどのご夫婦が休んでいた。地元の方で、ご主人は何度かこの平瀬道を登っているが奥さんは初めてということだった。言葉を交わして、ここからは何度か前後して行くことになる。この辺りには大きなブナの木も多く、近くに「大白川から2q、室堂へ4.9q」の標識があった。
 更に一時間ほど登ると快適な尾根道となり、ダケカンバも現れてくる。黄色のニッコウキスゲや薄紅色のシモツケを前景に、濃いエメラルド色の白水湖を見下ろして絵のように美しい。左手の湖の上には別山に続く稜線が、右手には三方崩山、右手前方には御前峰と剣が峰が美しく望めた。雑木林の中に入り、また何度か急坂と緩い登りを繰り返すと、道脇に「大倉山三角点」の標識があった。左の笹原の斜面に踏み跡がある。少し登ってみたが藪がひどいので引き返して、水分を補給して一息入れる。
100mほど下ると避難小屋があった。ここで昼食をと思っていたが、大勢で混み合っているようなので先に延ばすことにする。ナナカマドやタケカンバが並ぶ笹原の中を緩く下る。少し道が広く平坦になった曲がり角、10m足らずの右手前方に急に黒いものが現れた。「ク、クマ!」と叫ぶと、立ち止まってあどけない顔でこちらを見てから、トコトコと道を横切って左の笹原に姿を隠した。身長1.5mほどの子グマだと思うが、あっけに取られてカメラを向ける間もなかった。「近くに親がいる筈だ」と気付くと急に怖くなって、その場でしばらく様子を見る。そのうちに地元の女性二人がきたので、一緒に登ることになった。彼女らも「近くでクマの糞を見た」といっていた。
30分ほど登るとハクサンフウロ、ナデシコ、クルマユリなどが咲く見晴らしのいい場所にでた。もうかなり下になった三方崩山を見ながら昼食にする。その間に避難小屋にいた10数名のパーティが、二つのグループに分かれて通っていった。ここからキヌガサソウやオタカラコウ、メタカラコウを見ながら急坂を登る。木の丈が低くなり、ダケカンバやハンノキに混じってハエマツが現れ、次第に高山の雰囲気になってくる。尾根が痩せて左手が急激にガレて落ち込んだところに来る。斜面にマツムシソウやイブキトラノオがいっぱい咲いている。見下ろす白水湖はずっと小さくなった。和子が咲き残ったハクサンシャクナゲを見つけ、カメラに納める。
カンクラ雪渓の標識では先程のパーティが休んでいた。少し先に登ると、雪渓の中程でやや広くなった砂礫地の端を通る。ここはイワカガミ、アオノツガザクラなどの群生地で、クロユリも姿を見せはじめる。たまらずザックを降ろし、撮影モードに入る。そのうちに例のパーティもやってきて花談義をする。お先に出発するとき、パーティの女性から真っ赤なトマトを頂いた。みずみずしくて、とても美味しかった。ようやく勾配がゆるんだハイマツの中の道を行くと、間もなく室堂平の東の端に出た。御前峰はもう手の届く近さに見える。
雪渓末端から水の流れ出している所を過ぎる。展望歩道を南竜ヶ馬場へ向かう道が分岐する。この辺はコバイケイソウの大群落である。「室堂へ500m」の標識からは、ハクサンコザクラ、ミヤマキンバイ、オトギリソウなどの花々に迎えられる。「きれいやねえ」「来て良かったなあ」と何度も同じような言葉を交わしながら、雲一つない真っ青な空の下を行く。本当に爽快な気分だ。室堂に近づくにつれて人が多くなった。センター前の広場などはすごい混みようだ。
室堂センターで受付をすませて部屋に案内して貰う。カイコ棚の下段を一緒に使う横浜からのご夫婦、金沢の青年に挨拶をすませて、散歩に出る。まず売店で買った「白山」の文字と絵柄の入った特製缶ビールで喉を潤す。白山はゴミ持ち帰りが徹底していて、売店で買ったこの空き缶も各自で持ち帰らなければならない。奥宮祈祷殿に参拝した後、頂上への道を少し登る。両側にはずっとクロユリの群落が続く。毎年来ているという同室の青年の話では、今年は例年より花が多いそうだ。散策路との分岐まで来ると、緑の斜面の一部がクルマユリでオレンジ色に染まっているのが見えたので、そこまで登ってみる。見下ろすと、緑のハエマツの中に何棟も赤い屋根が寄り添うように並び、その上に別山が大きく聳えていた。頂上は明朝の楽しみに残して、分岐に下り左に折れる。
道に石止めの金網が張ってあり少し歩きにくいが、ハクサンコザクラの群落が見事だった。平瀬道を少し引き返す格好で、万才谷雪渓の上部へ行ってみる。雪の上で写真を撮っていると、先生に引率された小学生たちがやってきた。中には去年も来たという子供もいて仲間に自慢している。室堂の夕食は貧弱だったが全部平らげた。部屋に帰って横になっているうちに、朝からの疲れで早くから眠ってしまう。夜中に目が覚めて外に出ると、濃い霧が辺りを包んでいた。
29日 ご来光遙拝の太鼓の音が聞こえなかったのも道理で、4時を過ぎても外は霧で暗い。早くから他の部屋から出発するざわめきが聞こえていたが、私たちの部屋は後から来た人も含め皆まだ休んでいる。ぐずぐすしているうち4時半になったので、雨具を着けヘッドランプを点けて外に出る。相変わらず霧が濃く、すぐ近くの奥宮祈祷殿も見えないくらいだ。しばらく登るうちに足元が見えるようになって、ランプを消す。昨日引き返した地点を過ぎて天地の境「青石」まで登ったとき、とうとう雨になった。次第に激しくなる中を登る。イワギキョウの花が雨に打たれ、お辞儀を繰り返している。高天原の標識を過ぎると、大勢の団体が降りてくるのと出会う。ビニールの雨具や運動靴の人もいて苦労しながら下っていく。
奥宮手前で昨日言葉を交わした単独行の女性と一緒になり、3人で御前峰の三角点に立つ。雨のお陰というと変だが、他に誰もいない山頂を独占して写真を撮りあう。奥宮に降りると男女3人がコーヒーを飲んでいた。雨は少し小止みになったが見通しは悪く、おまけに強い風も吹き出した。
室堂に帰って朝食を済ませ、帰途につく。相変わらす霧が濃く、平瀬道の取り付きが分かり難くて散策路の方に行きかける。万才谷雪渓への目印になる大岩の所で、昨日の登りで前後していた夫婦と出会う。昨日は疲れて撮れなかった写真を撮っているそうだ。しばらく話をして先に下る。霧の中にナナカマドやシシウドの花が白く浮かびあがる。ヨツバシオガマも、チングルマも、ミヤマキンバイも濡れて光っている。昨日トマトを貰ったパーティに追いつき、先に行かせて貰う。雨が止んで薄日が差し大倉山が見えるようになったが、昨日、クマに出会った所からまた降り出した。避難小屋の中には今日も数人の先客がいるので、軒の下で一休みして出発する。途中、写真を撮りながらも何人かを追い越して、どんどん下っていくうちに雨は止み、下界の暑さが戻ってきた。ブナ林を過ぎ白水湖が近く見え、地獄谷からの硫黄の臭いが漂ってくる。この辺りから少し足取りが重くなったが、頑張って登山口に帰ると昨日の青空が戻っていた。

予想外の雨で頂上からの展望ができず、「前日に登っておけば…」と少し悔やんだ。しかし種類、数とも豊富な高山植物をゆっくり鑑賞し、おまけに初めてクマに遭遇するという貴重な経験までできた、一日半の楽しい白山平瀬道だった。