ベルリン市(州)の紋章 (Landeswappen) です。(*) 立ち上がったクマがベルリンのシンボルになっています。 なぜクマが選ばれたのでしょう。近辺に数多く生息していたから? いろいろな由緒・論拠が言われる中で、ベルリンという町の名前がクマに由来するからだ、という説が広く信じられているようです。クマは Bär (英語: bear) ですから Bärlin が Berlin になった・・・なるほど、確かに縁がありそうに見えます。 しかしながら、語源学ではこの説はきっぱりと否定されています。 現在ベルリンがあるところ、シュプレー川 Spree がやがてハーフェル川 Havel に合流する辺りは、ドイツ人が入植する前には、西スラヴ系の種族が住んでいました。それで語源としてスラヴ語に対応する語が探索されたのですが、該当語は見つかりません。 ということで Berlin の語源はもっと遡って古ソルビア語(**)ないしはバルト・スラヴ系の言葉で、恐らくはその辺りを流れていた小河川の名前に由来すると考えられていますが、どの語と特定されるには至っていないようです。 1253年のものがベルリン市の知られる最古の印章ですが、描かれている動物はごらんのとおりクマではなくワシです。ワシは1170年からブランデンブルクの紋章と定められていました。刻印されている文字は [SI]GILLUM DE BERLIN BURG[EN]S[IUM] と読まれます。 それではベルリン市の紋章にクマが採用されるのはいつなのでしょうか。 やはり早い時期から登場してきます。すなわち1280年の印章で初めて、2頭のクマがワシを支える図柄で現れました。この地域で最も裕福な都市、誇り高いハンザ都市として、自前の紋章を求め、このときこそ発音の類似からクマが選ばれたのだと推測されています。(***) 都市は封建領主とのあいだで間断ない争いの中で歴史を刻んでゆきます。ベルリンは皇帝から帝国都市としての地位を得ていました。しかし当時は騎士盗賊団が跳梁跋扈していたので、充分な武力を持たない都市は有力な貴族に保護を求めざるを得ません。貴族は領主として保護を与える代わりに服従を迫り、都市は最大限の自治を求めるというわけです。 1330年、1450年の印章を見ると、都市ベルリンとブランデンブルク領主との政治的関係を見事に映していますね。クマの紋章から屈辱的な首輪が取れるのは、実に1875年まで待たねばなりませんでした。 * 紋章イメージは Wikipedia による |