失う
    ・愛するものの失せし時

苦痛はわずかに この世を 失いしに 止まらざりしなり、

願いとして 溢出せし  祈祷の 聴かれざるより(人間の眼より評すれば)

 内村鑑三


懐疑の 悪鬼に襲われ、

信仰の立つべき 土台を失い、無限の空間 余の身も 心も置くべき処なきに至れり。

 
内村鑑三

これぞ真実の無限地獄にして 永遠の刑罰とは このことをいうならんと思えり、

基督教を信ぜしを悔いたり、

 内村鑑三


牧師の尉言も 親友の勧告も今は 怨みを起こすのみにして、

余は荒熊のごとくになり「愛するものを余に帰せよ」というより外はなきに至れり。

 内村鑑三


  
時に声あり

胸中に聞ゆ、

聞かんと欲して

心を沈むればその声なし、

悪霊懐疑と失望とを 以て余を挫かんとする時その声聞ゆ 

 内村鑑三



「生は死より強し、

生は無生の土と 空気とを変じ アマゾンの森となすがごとく、

生は無霊の 動物体を取り 汝の愛せし真実と貞操の現象となせしごとく、

生は人より天使を造るものなり」

 内村鑑三



「地球と人類が年を越ゆるほど 

生は死に 勝ちつつあるにあらずや 

さらば望みと 徳とを有し 神と人につかえんと己を忘れし 汝の愛するものが 今は死体となりしとて」

 内村鑑三



「何ぞ失望すべけんや、

理学も歴史も哲学も皆希望を 説教しつつあるに 何ぞ汝独り 失望教を信ずるや。」

 内村鑑三    



 余のうしないしものを思うごとに 断腸後悔 ほとんど堪ゆる 能わざるあり 

 内村鑑三



彼の愛に慣れ、

彼の真意を解せずして 余に対する 苦慮を増加し、

時には彼を呵嘖し、

荒らかなる言語を以て応ぜざりしことあり 

 内村鑑三



後悔にくるしめられ、

無限地獄の 火の中に我身を責め立てたり。

 内村鑑三          


 
彼の墓に至り、

細き声あり− 

「汝何故に、

汝の愛するもののために泣くや、

汝なお 彼に報ゆるの時をも 機をも有せり、

彼の汝に尽せしは 

汝より報いを得んがためにあらず」

 内村鑑三



「汝をして内に顧みざらしめ 汝の全心全力を以て 汝の神と国とに尽さしめんがためなり、

汝もし我に報いんとならんば この国この民に事えよ」

 内村鑑三



 「かの家なく路頭に迷う 老婦は我なり、

我に尽さんと欲せば 彼女に尽くせ」

 内村鑑三



「かの貧に迫められて 身を恥辱の中に沈むる 可憐の少女は我なり、

我に報いんとならば 彼女を救え」

 内村鑑三



「かの我のごとく 早く父母に別れ 憂苦頼るべきなき 児女は我なり、

汝彼女を 慰むるは 我を慰むるなり」

 内村鑑三



「汝の悲嘆後悔は無益なり、

早く汝の家に帰り、

心思を磨き信仰に進み、

愛と善との業を為し、

霊の王国に来る時は あまたの勝利の分捕物を以て わが主と我とを悦ばせよ」

 内村鑑三



 回復するや、

余の愛するものの 肉体は失せて彼の心は 余の心と合せり、

何ぞ思きや真正の配合は かえって彼が 失せし後にありしとは。

内村鑑三