◆ローコストハウス(町並みの変遷)


住宅について、ローコスト案を色々提案してきましたが、住環境についてあま
り書きませんでした。住宅そのものを安く良い品質で手に入れるのは、後の話
しとして、住環境の良い敷地を安く手に入れる方法を考えてみたいと思います。

今大都市を形成している住宅を、町並みとして連想して下さい。
多分別図の様な町並みをイメージされると思います。

http://www.jin.ne.jp/oado/gc1.html(画像ですので少し重いです)

俗に云う「うなぎの寝床」です。これは最近始まったものでなく、京の町屋に
も見られる、代表的な都市住宅です。時の権力者が住宅の間口に比例して税金
を課した為、間口を狭く奥行きを長くとる形態が定着しました。
(脱線しますが、これは世界的傾向で筆者はシンガポールでも確認しています)
京の町屋ほど、奥行きがあれば快適に生活する工夫として、中庭や裏庭等で、
通風や採光を確保できるのですが、最近の都市住宅を見るにつけ、間口が狭く
奥行きも無い、建ペイ率や容積率をとても遵守しているとは思えない住宅が、
乱立しています。敷地に目一杯建物を建てるから、自転車は道路に出っ放し、
ごみ箱も電柱の横当たり、側溝にフタをして花壇に変身させる。
もっと極端になれば、洗濯ものも道路で干している、てな風景も見受けられま
す。住環境以前の生きる為の最低限の生活行為の中に人々は永らく暮らしてい
ました。
それでも、高度成長期のあいだは、住宅難でしたから、とにかく庭付き一戸建
てであれば良いと、間口2間奥行き5間ぐらいの住宅が密集するミニ開発が横
行しました。大都市の衛生都市に良く見られる町並みです。
人々が豊かになり、世間が見えてきますと、一戸建てであれば何でも良い時代
が終わります。間口が狭ければ外から家を見るだけで、間取りが判ってしまう
様なありきたりの家は全然売れなくなりました。丁度オイルショックのあった
時代と一致します。

そこで、宅地割に工夫を凝らす業者が表れました。宅地を羊羹を切る様に縦に
割るのでなく、少しでも間口を広く取れるように工夫した宅地割りです。

http://www.jin.ne.jp/oado/gc2.html(画像ですので少し重いです)

この宅地はメリットが二つあります。一つは主眼の広い間口です。奥に入る路
地(専用通路)が必要ですから間口が倍とまではいきませんが、かなり広い間
口が確保でき、間取りのパターンも格段に多様化しました。
もう一つのメリットは家と家の間に路地がある為、採光や通風が良くなった事
です。隣棟間隔が広いですから見た目にも高級感がでて今日までもこのパター
ンは見られます。
この宅地割りの欠点は、奥の宅地の人気の無さです。中には静かな奥まった土
地の方が落ち着けると、好む人もおりますが、数は少数です。
となると、値段を下げて売るしか方法は無く、損をする訳にはいきませんから
前の土地に後ろの分の儲けまで乗せますから、前の土地が高くなりすぎこちら
も売れなくなると言った、悪循環が続きます。最近の様に土地が下がり続ける
とその結果が顕著に現れます。

建築基準法の最大原則に宅地の道路への接道が有ります。宅地が2m以上道路
に接していなければ、建物は建てられないのです。これは、公共のサービスを
享受しようと考えた場合、最低必要は道路との関わり合いから決められたもの
です。極端な話し道路と接道していなければ、ガス・水道・電気と云ったライ
フラインが引き込めません。
次にまたまた大原則の用途上可分・不可分の問題が有ります。校舎と体育館・
工場と事務所みたいに、同一敷地に二棟の建物が建っていても、単体ではシス
テムとして存在し得ない(用途上不可分)ものは、同一敷地に2以上の建物の
存在が認められます。しかし、同一敷地に住宅が二つ建つとどうなるでしょう。
それも道路から見て並列に建っていず、前後に建っていたとしたら。
前の建物の住人が、事情で前の分の敷地建物を売却しなければならなくなった
とします。次の購入者は以前の建物を潰して合法的に敷地間口一杯に建物を計
画したとします。後ろの住人は道路までの接道を絶たれてしまい、道に出る事
が出来なくなります。これを許すと社会的問題になりますので、建築基準法で
は住宅同志等単体で存在出来るものは、(用途上可分)として同一敷地に2つ
の建物の存在を認めていないのです。離れや隠居部屋はどうなるのって?建築
家が涙ぐましい努力をして、役所とギリギリの交渉をしているんですよ。

ここの問題を真正面から取り組んでしまうと、上記の宅地割りから抜け出せま
せん。他に方法はないのでしょうか?

公団のマンション群を見ていますと、一つ一つのマンションは公道に接してい
ません。団地内通路は有りますが、あれは公道では有りません。
では何故建設可能なのでしょうか?

建築基準法には団地を想定した逃げ道が有りまして、建築基準法86条(簡単
に一団地設計制度と呼んでいます)に個々の建物が接していなくても建設出来
る様に特例を設けて有るんです。
これを、戸建て住宅にまで認めてくれる行政は殆どありません。しかし、もし
認めてくれれば次の様な、町並みが出来るのです。

http://www.jin.ne.jp/oado/gc3.html(画像ですので少し重いです)

合法的に町並みを良くする努力として、数々の先達が色々な試みを行なってい
ます。

例として

西神SVヴィレッジ:袋小路などに設けられる回転路を利用して広場形状の
スペースを作っている

西神29狩場台 :団地内にフットパス(車の通れない小道)を多用して
いる

三田市アルカディア21 :住宅に囲まれた路地裏に空間を設け広場形状の空間を
作っている

以上上げた物件は回転路の利用以外は、別に道路があり、法的制約から抜けき
れていません。
旗状敷地に見られる専用通路は、幅員2mの細い通路です。しかし、一件につ
き2m必要な訳ですから、四件集まれば、巾8mの立派な空地が出現します。
既存の敷地の様に塀で囲んでしまえば、2mの巾しかありませんが、たいして
使い道の無い、通路を公衆用通路としてお互いに持ち出せば、8m巾の立派な
空地が出現するのです。行政によっては、専用通路の存在を明確にする為に、
わざと塀を設けるよう指導する所も有りますが、快適な環境を作る観点からは
かけ離れた、行政にだけ都合の良い指導だと云って過言ではありません。

数年前大阪府箕面市で小さな住宅を設計しました。大手の不動産会社の所有
物件だったのですが、道路から見て間口が狭く、奥が広がっていて道路際に
一件、専用通路を2本つけて奥に二件合計三件の計画でした。これだけ地型
が悪いと、奥の家二件がどうしても売れ難くなります。

http://www.jin.ne.jp/oado/gch1.html(画像データーですので少し重いです)

人を介して何か良いアイデアはないかと、私に相談の依頼が舞い込みました。
日頃、不満に思っていた、宅地割りに対する問題をこの現場にぶつけました。

http://www.jin.ne.jp/oado/gch2.html(画像データーですので少し重いです)

まず、旧態依然とした2m幅の専用通路は止めにして、公衆用道路(基準法
上は専用通路)にして三件の共有持ち分にしてしまいます。つまり共同管理
の庭として通路を利用しようと考えたのです。事前に役所に相談にいくと、
基準法上奥の家それぞれが2m幅の通路で市道に接していれば、形態につい
ては特に問わない。との返事でした。
その返事を持って大手不動産会社と交渉に入ったのですが、大きい会社の為
小回りが利かず、(前例の無いアイデアは潰されるんですよねエ)頭の固い
上司の説得に随分担当者さんも苦労されていた様です。
話しが8割方まとまり、いざ設計料の話しをしようとした矢先、担当者さん
が広島へ転勤してしまい、後任の担当者が中々本質を理解してくれない等々
で、遂にこの話しは頓挫してしまいました。私も努力した割りに、実費計算
の報酬しか得られず、それよりも何よりも、自分の理想とする宅地割りが実
現出来なかったのが、不満で不満で、悔しい思いをしました。
最近別件で、近くに現場が出来まして、あの宅地はどうなっているかなと、
探してみる機会があり、見つけてみると案の定、道路際に一件住宅が建って
いるだけで、奥の宅地は雑草が生い茂っていました。
もう少し私に交渉力があれば、この事業の参加者全員が良い思いをしたのに
と思えてなりません。

今までに無い斬新なアイデアをとか云う割りに、思い切ったアイデアをぶつ
けると、急に保守的になってしまう。この辺の関西人の優柔不断さが現在の
不況を長引かせている一因ではないかと思うようになりました。
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