晩秋の昼下がり、隣家の紅葉が目に映えて清すがしい。

ところがさわやかな気分も束の間、嫌な臭いが鼻についた。

『―また、やられたかな?』玄関横の山茶花は根元辺りが砂地で、以前からそこに猫が糞をするのだ。
隣近所を走り回っている猫は数匹いるが、我が家に出入りする猫はきまっていた。
随分前でタイトルは忘れたが、大阪の下町を舞台に、オカッパで下駄を履いた女の子と、喧嘩は強いがお人好しの父親が主人公のテレビ漫画が人気を呼んだ。我が家に顔を出す猫は、その漫画に出てくる“小鉄”という名のボス猫によく似ていた。虎模様の毛色や風貌、それに妙に貫禄があり、図体の大きな雄猫だ。
先日、その“小鉄”と出会い頭にぶつかったが、少し悔しい思いをさせられた。玄関脇の階段での事だ。こちらが近ずくと、驚いて逃げるかと思いきや、上段から獲物に向かう構えで人の目を凝視しているのだ。威しに手近の石を取った。だが相手は動じない。『こいつ!』小石を掴んだ手を振り上げたとたん、パッと身を翻した
もうゆるさん!』今度は本気で思案した。山茶花の側にバラが古い枝を伸ばしている。
古い枝は刺が鋭い。突付いて見ると指先に、薄く血が滲んだ。
『この枝と刺だ!よし、これを20センチ位に切って、5〜6本ずつ糞の場所に置いて、土を被せて・・・』

数日して覗いて見ると、掘り起こされたバラの枝が、乾いた糞と混ざって散らばっていた。―そして庭先は静かになった。 

バラの枝が効き過ぎたかな・・・』
秋日和に、前の通りで落ち葉を掃いていると、3軒隣の小学生の女の子が、2匹の猫に首輪をつけて近ずいてきた。犬の散歩に見立てたか、猫に紐をつけている。滑稽さを通り超して一種異様な光景に見えた。
女の子はこちらを見て可愛く会釈したが、恥ずかしそうに小さく照れ笑いをしていた。しかし二匹の猫の方がもっと恥ずかしそうだった。
更によくみて見ると、一匹は“子鉄”ではないか!彼は日頃のふてぶてしい態度はどこえやら、ただ俯くばかりだ。
今、子鉄の飼い主の家は建て替え中で、家人は近辺の仮家へ引っ越しのようだ。家屋は取り壊されて基礎工事が始まったが、雑然とした現場の周りを2、3匹の猫が、途方に暮れてうろついている。慣れ親しんだ住家が急に消えて戸惑っているようだ。
外出から帰ってくると、我が家の玄関横の日溜りで子鉄が蹲って、気持ちよさそうにまどろんでいた。彼はまだこちらに気ずいていない。足音を忍ばせて、そっと玄関の扉を開けた。子鉄の首に、首輪はなかった。