◆ 由紀子先生の保健室 ◆



■ 第1回 ■  先生の悩み事

「あーん、吉沢君。 どうしたらいいのぉ??」

ここは身体が弱い僕がいつもお世話になっている保健室。
今日も午後の授業中に立ちくらみがして自主的に休みにきたのだけど、出迎えてくれたのは今にも泣き出しそうな由紀子先生の顔だった。

「葛葉先生、僕は具合が悪くてここに来たんですけど・・・」
保健委員の付き添いもなくここまで一人で歩いて来れたのだから大したことはないのは明白だったけれど、僕の言葉にハッと顔色を変えて先生は保健医としての職務を思い出してくれる。

「だ、大丈夫なのっ? どこか痛い?気分は? 熱と血圧と触診と直腸温度と、それからそれから・・・」
直腸温度って、たしか死体の死亡時間を推定する時に計るんじゃなかったっけ?
でも、ま、いいか。 由紀子先生にお尻に体温計を突っ込まれるのも。
ああ、そんな趣味は持ってないから念のため。
突っ込まれる行為を求めてるんじゃなくて、先生がどんな顔を見せてくれるかに興味があるだけだから。


「大丈夫です、いつもの貧血ですよ。 少し休めば回復しますから」
テレビゲームじゃないけれど常に貧血気味な体質の僕にとって、保健室のベッドは街の宿屋でHPとMPを回復するような場所だった。
治療とか特に必要はなくて、いつも時間が経てば元気になれる。

「本当に?? 先生が付き添わなくてもいいの?」
頼んだらベッドで添い寝してくれそうな勢いだ。 本当に由紀子先生にはいつも苦笑させられるよ。
大学を出たばかりでとても若い先生なんだけど、服は地味な色のブラウスとスカートに白衣を羽織っただけのやぼったい格好。
その上ほとんどスッピンで化粧気がなく、黒縁のダサいメガネをかけて無造作に髪をくくってる姿は、彼氏持ちの化粧に入念な我が中学の女子生徒と比べても色気の面で見劣りするかもしれない。
でも、この中学に赴任してきてから男子女子に構わず評判は良かったんだ。
それもこれも、先生の生徒に対する無防備とも思えるほどのフレンドリーさにある。
言い換えると面倒見がいい、おせっかい、からかいやすい、見てるとおもしろい、それが慕われてる原因なんだろうね。
好きで保健室通いをしてる訳じゃないけれど、僕も優しい由紀子先生に心配されたい気持ちがなくもないかな。

でも最近は、それが仇にもなっているみたいなんだ。
きっと今も何か難問を抱えているんだろう。 先生の最初の反応を見るとわかるよ。


「また難しい相談、受けちゃったんですか?」
再びハッとした表情になって、先生は勢い込んで僕の肩をつかむ。
「そうなのよっ! あのねっ、相談者、女子なんだけど・・・」

保健医としてスクールカウンセリングも行っていた由紀子先生は、放課後によろず相談室を設けて生徒たちの悩みに応えている。
他の学校は知らないけど、大抵のところにも似たものあるんじゃないのかな?
でも、普通の先生だったら普通にこなしてしまうだろう生徒からの相談事を由紀子先生の場合は・・・。

「あのね、一人でエッチしちゃう時にね、道具を使ってもいいか?って聞くの。  先生そんなの使ったことないから、もうびっくりよ!」






アダルトにも程がある相談内容を力説されて、僕は逆に覚めた目で先生を見つめた。
なんでそんな相談を中学生からされちゃうかなー。
からからわれてるとか疑わないの?

「だって一人エッチって指でするものじゃない?  先生もそうだし、吉沢君だってそうだよね??  それ用の道具があるなんて思ってもみなかったんだもの」

それに病弱だけど僕も一応、中学二年の男子生徒なんですが?
思春期真っ只中、毎晩のように一人エッチに励んでしまう下半身だけは元気な男子なんですよー。


「でねっ、驚いたことにはその子の友達は皆経験してて、自分だけ取り残されていたんですって。  もう、びっくりを通り越してため息よ。  年上で男性経験もそこそこあるのに、先生、その子の友達たちより遅れてるんだから・・・」

進んでるとか遅れてるとか、そんなことで張り合う意味あるんですかね??
先生にもその女子にも。

「あ、先生の話じゃなかったわね。  その子がね、道具を使った一人エッチをやりたいけれど不安なんですって。  経験ないしバージンで、大切なところを傷付けたら大変じゃない。  かと言って、止めなさいとも言えないし。 仲間はずれも嫌じゃない?  だから、どう答えてあげようかなって・・・」


腕を組んで真剣に悩んでいる先生の隣で僕は隠れてため息をついた。
その女子が本気なのかどうかは分からないけれど、いい大人の、しかも女性の保健医がアダルトグッズの考察だなんて。
まあ、先生の気が済めばいいのなら、ネットを検索すればその手の情報は嘘か誠かを別にしてゴロゴロしてる。
だけど悲しいかな先生は極度の機械音痴だったんだ。
以前、ファーストキスのやり方を相談されて県立図書館にまで文献を調べに行ったらしいし。

「ねぇ、どうなのかしら? 吉沢君は男の子だから女子の一人エッチは知らないと思うけど・・・」
「ある程度なら知ってますよ?」
「えっ! どうしてっ? お隣の女子大生の一人エッチを覗き見してるのっ??」
「なんでそうなるんですかっ。 知識として知ってるんです。 ネットやビデオとかで」
「あ、そうなんだ・・・ごめんなさい。 じゃあ、知ってることでいいからアドバイスしてくれない?」

だから、時々こうして由紀子先生に向けられるの相談事をサポートしているんだ。
知ってることをアドバイスしたり、先生に代わってネットで検索してあげたり。
世間知らずの先生に一から説明するのは大変だけど、僕自身もそんな苦労を楽しんでたりする。
それに、相談に真剣に取り組み始めた由紀子先生は・・・。


■ 続 ■




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