■ 第1回 ■ 窓の外の風景 その日も僕は保健室で身体を休めていた。 ベッドで少し眠り、目が覚めると日がかげってる。 午後に体育がある日はいつもそうだった。 放課後まで休み、ホームルームを欠席して体調が戻れば帰宅する。 今日はそんな日だったんだ。 ベッドの上から壁掛け時計を見ると一般下校の少し前。 運動部の連中はまだ残ってるだろうけど校内は静まり返ってる。 「・・・・?」 体調も回復していたから起き上がってベッドから降りようとしたのだけど、僕はあることに気付く。 不意に頬にひんやりとした風を感じたんだ。 誰かが保健室の窓を開けたのかもしれない。 日中はまだ暖かかったけれど日がかげると気温も下がってくる季節。 保健医の由紀子先生なら開けっ放しにしておくはずはないんだけどな? まさか保健室に泥棒?! 不審に思いながら、そっとベッドを仕切るカーテンの隙間から窺ってみた。 すると、窓際には由紀子先生が座っている。 わざわざ椅子を持ち出してきて、窓を開けて外をぼんやりと眺めてたんだ。 いつもの白衣に無造作にくくった長い髪。 お化粧をしてちゃんとした服装でいれば美人でいられるのに、仕事以外は無頓着な先生はいつも色気のない格好をしてる。 だからこそなのかな? 放課後に行われてるスクールカウンセリングで、男子女子ともに由紀子先生には包み隠さずに悩みを打ち明けられるのかもしれない。 もし美人で色気たっぷりの先生だったら、思春期のくだらない悩みなんて恥ずかしくて話せないだろうね。 でも逆に先生は、そんな生徒たちの悩み事に苦心させられてるのだけど・・・。 「あ、ごめんね。 寒かった? 今閉めるから」 僕の視線に気付いた先生が慌てて窓を閉めてくれた。 そして、なぜか白衣の前を閉じる素振りもする。 「いいえ。 お陰で目覚めよく起きられましたから」 カーテンを開け大きく伸びをして見せて、心配は無用だとアピールする。 「ちょっと・・・ね。 外、見てたのよ」 言われなくても分かるけど。 まぁ秋だし、なにかセンチメンタルな気分にでもなったのかな? 先生だって年頃の女性で恋に恋する乙女でいてもおかしくないけど。 誰か好きな人でも出来たのかな? 僕に対してもどことなく上の空な態度だし・・・。 「水泳部の子達・・・寒くないのかしら?」 先生は閉めた窓に向かってつぶやいた。 水泳部の連中を眺めてた?! 誰か気になる奴でもいるんだろうか・・・。 いや、確か部活の顧問は独身の黒谷先生。 まさか・・・な。 「そりゃあ、寒いでしょ。 水に入るのだし、あんなちっぽけな水着穿いて寒くないはずないですよ」 「そうよね・・・。 あんな股間もっこりの水着・・・恥ずかしくないのかしら?」 「え・・・っ?」 由紀子先生は水着を見ていたのか? 競泳男子のあのブーメラン状の水着を。 股間にフィットしすぎてアレの形までハッキリ見える水着を眺めていたと?? そっとベッドの上で移動して先生の視線の先を確かめる。 確かに先生が見つめている先には屋外プールがあり、そこでは水泳部男子が部活動を行ってた。 「慣れたら恥ずかしくなくなる? だから出来るのかしら? でも、それじゃあ意味があるのかしら? 部屋じゃなくてわざわざ外に誘うのよ? どこででもいいのなら、外を選ばなくてもいいんじゃない??」 疑問符だらけで聞いてて訳がわからない・・・。 いや、1つ確かめられたのは、水泳部男子のモッコリに見とれていた訳ではなかったんだ。 部員にも黒谷先生にもときめいていたんじゃないと分かってなぜかホッとする。 「なんの話なんですか? ひょっとして、またカウンセリングの相談絡みなんでしょうか?」 予感と言うより確信に近かったかな。 先生が憂鬱になったり泣きついたりする時は大抵、相談者からの無理難題な悩みを背負ってしまってる。 今もそうなんだろう。 由紀子先生は振り向いて僕に向かって深いため息をついた。 「吉沢くんは、立小便したことある?」 「え? まぁ・・・はい、小さい頃には」 悩みを抱え込んだ顔のまま、また妙なことを言い出す先生。 「ちゃんとオシッコ出来た? 今でも人前で出来る?」 「今はさすがに・・・小学低学年までですね」 「でも、その子は男子高校生なの」 「高校生でも切羽詰ってたら出来ると思いますけど」 「オチン○ンを外に出す勇気、あるって訳ね?」 「はい、僕もいざとなったら人前でもできますよ」 そして、マジマジと僕の顔を見て。 「セックスもできる??」 「はい?」 なんのことだ? 立小便とセックス、いったい何の共通点が・・・って、あっ! 「相談者は高校生の彼氏持ちの女子よ。 初体験はとっくに済ませているのだけど、最近彼に野外でセックスしようと求められるんですって」 なるほど・・・。 男子が屋外で裸や性器をさらす羞恥心について知りたかったのか。 それで水泳部を眺めたり、立小便の話を聞いたり。 「エッチは好きだけど外でセックスする理由が分からなくて困ってるって、その子は言うの。 先生も初体験は彼氏の家でだったし、公園でセックスした経験はないわ」 そして、また僕の顔をじっと見つめる。 「僕も経験ないですよっ」 「そうなんだ・・・。 はぁ、誰か身近に経験者いないかしらぁー」 由紀子先生の悩み具合では本気でここの生徒から聞き取り調査をしそうだ。 1.あなたは野外でセックスした経験がありますか? YES/NO 2.彼氏/彼女に野外セックスを誘われたら従いますか? YES/NO 3.経験者は野外セックスをして良かった点、悪かった点を具体的に書きなさい なんてアンケートをバラ撒いたら、校長だけでなく教育委員会もPTAも黙っていないだろうなぁ。 「先生が経験、すればいいんじゃないですか?」 由紀子先生の暴挙を止めるために提案してみる。 そう、止めるために。 もちろん真っ先に相手役に立候補するつもりだよ。 先生なら他に探すのは面倒だからという理由で即採用してくれそうだ。 「いやよ、そんなの」 あれ? 速攻で拒絶される・・・。 「面倒じゃない。 デートしてキスして、盛り上がったところでやっと愛撫を始めて・・・しかも屋外でずぅーっとよ? 寒いし暗いし、虫だってたかるだろうし、ヤモリに悲鳴上げたら警察呼ばれちゃう」 「そう・・・ですよねぇ」 野外セックスにはデートまで入るんだ。 そりゃ、家にいる時にいきなり外でエッチしよう!と連れ出す奴はいないな。 デートの流れとして公園や浜辺でやりたくなるのが普通だろうし。 こんなところは常識的なんだな、由紀子先生って。 「だから、デートは省略して直接愛撫されて確かめるわ。 羞恥心の度合いとか確かめたいの」 そう言うと僕を睨んで。 「先生を窓際で愛撫してちょうだい。 もう具合良くなったんでしょう?」 でも、やっぱり先生は先生だった。 僕はこの斜め上な思考の実験の協力を求められる・・・。 |