料理は自己表現「大和の野菜を使って食福の刻を創る」
「昭和50年にオープンしまして、お箸でいただく創作洋風懐石を出したんです。私の実家は三代続いた料理旅館の家ですから、日本料理を身近に見て育ちました。器も素材も彩りや季節を大切にする日本料理からすると、それまでのフランス料理はどことなく味気無かった。そんな洋食を日本人の文化の中で考えてみたかったんです。料理をアートしたかったんです。それで食器も和食器や塗りものを使い、ナイフやフォークではなく、日本人が使い慣れたお箸でいただけるような料理にしました。私にしたらごく自然だったんですが、大変な反響でしたね」。 口コミはもちろん、テレビ新聞などのマスコミにも取り上げられたのは、食器やお箸はさることながら、料理がおいしかったから。 「10年目に料理の写真集を本にまとめ、私の中では一区切りつきました。現在ではあちらこちらで和食器やお箸も使われ、今度は逆にジノリやマイセン、バカラといった器を使うようになりましたね。そして、大和の野菜に行き着いたんです。料理は文化ですよね。例えば、一流の料亭に外国のコックさんが見習いに来て、数年で日本料理の心が理解できるでしょうか。お茶やお花、四季の行事も理解できて初めてその国の料理なのです。 技術は修得できても料理の心まではなかなか難しいですね。日本の心に添う洋食を考えると地元の食材を使いたいということになります。それで、大和野菜。いい材料があるんですよ。ナスやトマト、アスパラ、イチゴ、イチジク…。大和の食材を料理に活かしたいですね」。 店内の絵画や美術品は毎月替えられ、自らも絵や書を楽しみ、ロクロを回されます。日本の形と心を料理を舞台に花と咲かせる尾川さんの手腕、おもてなしの心は食福の刻をどう創って見せてくださるのでしょう。 |