KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.9

「百済観音半身像を見た」を出版


野島正興さん(生駒市在住)
のじま まさおき      


 NHK京都放送局のチーフアナウンサーとして多忙な日々を送る野島さんは、徳島放送局時代に知り合った俳人との縁で句誌にエッセイを書き始めたそうです。アナウンサーという花形の職業の知られざる一面が軽妙洒脱な文章で書かれ、時に脱帽、時に抱腹と徳島だけでなく友人知人の間で評判となりました。

 八年間にわたって書かれた中から奈良でマイホームを手に入れ、隣の空き地の草取りから吉野の国栖奏にまで至る話、名古屋へ転勤した時に出会った仁王像、そして百済観音にまつわる六年をかけた取材体験の三編が一冊の本になって出版されました。
 奈良の書店ではベストセラーとなっています。

 「私は特に仏像が好きとか詳しいとかいうわけではなかったんですが、一つの出会いをたぐり寄せると次々に疑問が生まれ、解こうとすると、また出会いがあってというようにして謎解きができたんです」

 折しも九月から十月にかけて奈良国立博物館で特別展観「百済観音」が開かれ、十一月からは法隆寺に大宝蔵院百済観音堂が一般公開されたところです。何やら不思議な縁を感じさせます。

 「日本の仏像は明治になって初めて、美術品であるという認識を得たようですね。阿修羅像も百済観音もひどく傷んでいて、今私達が見ているものとは随分違っていたようです。これも不思議な出会いだったんですが、徳島出身の写真家・工藤利三郎の写真がそのことを証明してくれています。

 修復のための美術院国宝修理所が作られたのが百年前。初代の院長は新納忠之介なんですが、二体の全身像と半身像を模刻しているんですね。一体は大英博物館、もう一体は東京国立博物館に所蔵されているんですが、半身像のゆくえが分からない。その出会いの過程をまとめたんです」

 ページをめくる手がもどかしい、活字を追う目が弾む、出会いへのクライマックスは、野島さんと一緒に現場に居合わせたような臨場感にあふれます。読書の秋におすすめの一冊です。ひとつの出会いから広がる大きな世界


晃洋書房刊1500円(税別)

 



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