KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.11

 

教授と学生、二役を果たした
ユニーク英国留学記


奈良教育大学教授 田淵五十生さん


 田淵さんが教師への道をと思い至ったのは高校生の時に出会った先生の影響だそうです。入学式では大きな帆船の絵を前に「君達は今、この船のように人生という大海へと船出をしたのだ」と話し、昼間は共にグランドを駈け、夜はバーベキューをして生徒と同じ目線で接してくれた熱血先生のことを懐かしそうに語られます。

 「教育というのは人生に大きな影響を与えるものなんですね。僕は岡山県の田舎の中学で割に良くできて、高校を広島大学付属に行ったんです。そしたら各地から優等生がたくさん来てるものだから、劣等生になったんですよ。教育者というのは、このできないということが良い面もあるんです。分からない子の気持ちが分かる。

  大学院で修士課程を終えた時、研究者の道に進むか迷ったんですが、丁度カトリック系の女子高の校長先生から声をかけてもらいましてね、僕のわずかな知識でも待ってくれる人がいる、教育実践という自分を解放することにチャレンジしたいと思って行くことにしました」。 結局十三年間、若い情熱をかけて教育に取り組みました。

 問題を抱える生徒の家を夜、ゆっくりと訪問すると学校では見えなかった家庭での素顔や両親にとってはかけがえのない子だということが実感できたのだそうです。妊娠して退学した生徒が数年後復学を希望していると知った時、厳しいお嬢さん学校の猛反対を少しずつ解きほぐして結局は卒業させることができたとか。

「カトリックの学校でしょ、聖書には一匹の迷える羊のこと何と書いてありますか、ってね先生方一人ひとりを説得したんです。いろんな失敗もしましたがあれは数少ない誇れることです」。その後、奈良教育大学で教育者を教育する道を歩き始めますが、ここでも学生とのユニークで楽しい、信頼関係を紡いできました。授業だけでは足りなくて、正暦寺に泊まり込み、『星の王子様』の読書会を開いたり、信楽で陶芸をしたりしたそうです。そして、四十八歳の時、イギリス留学を体験されます。ヨーク大学という日本人の研究者が少ない所で授業を受けつつ、日本文化の授業も担当、学生と教授の二足のわらじで八面六臂の大活躍。

 「授業にも教授会にも出るという実に楽しい毎日でした。でも体験は風化してしまいますから、しっかり書いておこうと思ったんです。学生を置いてきてるでしょ、いろんなことを知らせたいしレポートのように書き送っていたんです。情けない失敗やら感じたことがありのままに書いていて面白いと、結局一冊の本になったんです」。 タイトルは難しそうですが、読み出すとやめられません。まず、飛行機を乗り継いで目的地に着くまでの涙と笑い、一編のエッセイを読むようです。イギリスの文化や留学する意味も改めて感じさせられます。面白い上に為になる一冊でした。



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