KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.15



奈良県立商科大学学長
三島康雄さん

奈良への置き土産に
「奈良の老舗物語」を出版


 国際文化観光都市として世界へ通じる都市づくりを目指す奈良県は、県立商科大学の商学部に国公立としては初めて「国際観光経営コース」を開設、注目を集めています。
「観光県として伝統に頼るだけでなく、新しい方向も考える必要がある」という三島学長の提言からできたコースも3年を経て、さまざまな成果をもたらしました。

 来年3月に任期を終える三島さんは、このほど「奈良の老舗物語〜伝統と革新のはざまで〜」という一冊の本を出版、奈良市内の書店ではベストセラーとなって各界からも注目を集めています。
「私は経営が専門でいままで大企業の研究をしてきました。奈良へ参りましてから、学長という仕事もあるし、大企業もありませんし、研究はできないなと思っていたんです。それが1年位前でしたか、奈良の町を歩いて、老舗が多いでしょ、調べたら面白いかも知れないと取りかかったんです」
学長という仕事は学校全体のさまざまな仕事があって、忙しく、研究活動はその期間休止になることが多いのだそうです。

  三島さんもしばらくはそうでしたが、やはり学者魂は抑えがたく、奈良ならではの研究対象を見つけて早速調査研究を始めてしまいました。
「古梅園という製墨の店を皮切りに始めたのですが、営業報告書であるとか、社史など一般に公開している文書記録が無いんですね。それでこれは聞き取りによるしかない、つまりオーラルヒストリーという手法で行うことにしたんです。この聞き取りというのは人を対象にしますから、記憶や先祖からの伝聞に違いがある場合も多いんです。市史や県史など客観的な資料を頭に入れておきませんとね、研究者としての責任がありますから」奈良を書いたものは古今さまざまな本がありますが、ほとんどが歴史や文学。企業の歴史に的を絞ったものはありませんでした。学問的な基盤の上に立っての老舗研究は、学者を対象とした論文ではなく、平易な文章で一般の読み物としても大変面白いものです。店の佇まいは知っていても、どんな歴史を持ちながら続いてきたのかほとんど外からでは窺い知ることはできません。資料とインタビュー、そして文末に三島さんならではの数行のコメントが印象的です。志賀直哉は奈良を去る時に「奈良の置き土産」という一文を残しました。三島さんはこの一冊を奈良での成果として、私達に残してくださいました。


「奈良の老舗物語」三島康雄 著
奈良新聞社刊


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