KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.20


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鷲塚泰光さん
奈良国立博物館館長
鷲塚泰光さん

宝物有情
作り手、使い手、そして守り伝える手


 今年の春、奈良国立博物館館長に着任された鷲塚さんは、東京国立博物館で大変な評判となった特別 展「花」などを手がけてこられた方です。

「奈良には仕事で良く来ていましたが住むのは初めてです。正倉院展も毎年見ていますが、今まではあくまで外部の立場だったでしょ、それが今度は全責任を負う訳ですから、大変です。さまざまな展覧会を開いてきて、思うのは、どの場合も無事に展示品を返すまでは神経がすり減るということです。まして正倉院の宝物ですからね。会期が終わって片づける時は、ほっと安心する一方で、何とも言えない淋しさを感じるものなんです」

今年の正倉院展は、復元された黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(七宝の鏡)が御物のものと同時に展示されるなど早くも話題を呼んでいます。

「出展品は正倉院事務所が未公開のものを数点含んで決められるのですが、今年はいろんな種類があります。聖武天皇が使われたと思われる琵琶も出ます。象牙のバチは天皇自ら手にされたと思われるのですが、少しへこんでいるところがあって、これは手に合わせて弾きやすくしたのでしょう。焼き物では日本の二彩 や三彩。なぜ唐でなく日本のだとわかるかというと、轆轤の挽き方が右回りなんです。中国は左回りですからね。武器武具、聖武天皇の一周忌に使ったであろう道場幡、鏡、羅など多様なものが出展されますから、どうぞゆっくり楽しんでください」

 知識を得ると共に憩いの場である美術館や博物館が、あまりに知識に偏重しているのではと話されます。見て感じ取る喜びを大切にするためには自分なりの視点を持つことだそうです。

「例えば、正倉院の文様の中で鳥に注目してみるとかね。実にさまざまな鳥が描かれていますから、どの鳥がどんな風に文様になっているか、気を付けて見ると面 白いと思います。正倉院のものは大体8世紀のもので時代の変遷はたどれませんが、別 の機会に鎌倉や江戸の鳥はどう描かれているかなど、比較して鑑賞することができるでしょう。色彩 で見ると暈繝というグラデーションの彩色についてなど観点を定めてみるのも面白いと思います」

 日本の美術品の最大の特徴は伝世。人の手から手へと守り伝えられたもので一度も土中に埋もれていない、世界でも類い希な状態で保存されています。そこには作り手と使い手、もうひとつ重要な守り手の存在があるのです。公家や貴族、神官、僧侶、時の権力者、富豪といった人々が大きな役割を果 たしてきましたが、今は博物館や美術館が重責を担っています。

「私たちの仕事は、どうして保存していくかということと、美術品を多くの方にどう還元していくかということです。そのためには、見やすい展示のデザインや、鑑賞のための教育も考えていく必要があります。正倉院展や春秋の特別 展以外にもいろんな展覧会を開いていきますから、どうぞお出かけください」


黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(七宝の鏡)は、復元されたものも同時に出展されることで注目を集めている

*正倉院展は10月28日から11月13日まで。
9時から16時30分
(金曜日は20時まで。入館は30分前まで)



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