KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.24


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宗教、古代史、民俗学にも 造詣の深い小川さんの写真 は深くやさしい。

いにしえと今を結ぶ 写真のこころ
写真家 小川光三 さん


 奈良国立博物館の向かい側に新しくなった飛鳥園がオープンしました。寺院の古材を柱にしたモダンで落ち着いた建物が目を引きます。中に入ると仏像写真の展示と喫茶コーナー、奥には広い庭と茅葺きの別棟が続き、表からは想像できなかったのびやかな空間が広がるのです。
茅葺きはバリ島から材を運び、職人もやってきての普請となりました。屋根裏が美しい彼の地の建物では父、 小川晴暘さんの特別展の展示中。オープンしたての多忙の中、小川さんをお訪ねしました。

「私は3人兄弟でしてね、上の兄が写真も絵も上手い天才的な人でしたから、父の跡を継ぐと思っていたんです。私は末っ子だしまるで好きなことをさせてもらってました。その兄が20歳の時に病死したんです。 次ぎの兄は学者の道へ進みましたから、自然に私が飛鳥園を継ぐことになった訳です」

 もともと画家になりたかった小川さんは、写真の構図や光りにも鋭い感性を持っていらしたのでしょう、 素晴らしい写真を発表してこられました。島村利正の小説には父 晴暘さんとのしみじみとしたやりとりが描かれ、 「飛鳥園」は文化的なサロンの役割をも果たしていた様子が窺えます。
そんな環境の中で生まれ育ったのですから、 小川さんの美意識や知識が磨かれていったのも当然だったのでしょう。「子供の頃から撮影や暗室の作業などは手伝っていましたから門前の小僧で知っていましたが、教えてもらったことは無いんですよ。ただね、僕はせっかちな性格でたくさん写真を撮るんですが、 その時に『写真はたくさん撮るな』とそれだけですね教えてもらったのは。後になって少しずつその意味が分かりました」

 無限の空間の中で一点を定め、光線を選ぶのが写真。しかも仏像は信仰の対象だから、どれだけ理解しているかで写真が違ってくるのだそうです。作らせた人の思いと作った人の心そのものにレンズを向けることになると言います。


バリ島の茅葺きが独特の雰囲気を醸す展示室


長い歴史の中に多くの人々が捧げてきた祈りとはどういうものなのか、そこが分からないとレンズの位置が定まらないとも。父の言葉は深く自分を見つめるとカメラの視点が自ずから定まり、たくさんの写真を撮らなくなるということだったのでしょう。「日本の仏教文化を知ろうとすると古代信仰へと興味が湧いてきます。三輪山の日の出と二上山の落陽は、まさに稲作民族の心なんですね。
そこから太陽路のことへ思いが至った。信仰も色彩も風土の中から生まれてくるものです」

 古墳の隆盛には灌漑の効果があったからで位置にも意味が込められている、サクラやホトケの語源はなどなど話は深く、広く、面白くその博識にはただただため息。これだけの想いが凝縮した写真だから、こんなにも美しいのだと納得です。



古材の柱が見をひく飛鳥園の表構
■飛鳥園
■開館 10時〜18時 月曜休館
■入館無料
■奈良市登大路町59 TEL0742-22-5883 


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