KCN-Netpressアーカイブス

人と心とふれあいと
Vol.26


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仕事、ワイン、ガラス、茶道
全部含めて生き方そのもの

麹谷 宏(こうじたにひろし)さん
グラフィックデザイナー


 仕事と遊びが一緒という幸せな生き方は誰もが望むところです。麹谷さんの場合は単に一緒というだけではなく、いずれもが極上なのですからこれはもうすごいことです。一流のグラフィックデザイナーとして無印良品の開発計画に参画、農協牛乳の開発、日本のボージョレーヌーボーブームの仕掛け、劇団四季のアートディレクションなど一時代を築く仕事を手がけつつ、ワインに関しては今年の夏、フランスからシュバリエ農事功労章という勲章を受章、ガラスではベニスのガラス工房で素晴らしい作品を作って発表、茶道でもワインを取り入れたお茶会で注目を集めるといった次第です。仕事が一流なら遊びも一流。そんな麹谷さんを東京南青山の事務所に訪ねました。

「僕のやってることって一見ばらばらに見えますが、実は全部つながっているんです。パリでデザインの仕事を3年間していて、その時にワインと出会ったんですが、シャンパンをきれいに見せるクーラーが欲しくてガラスを始めたんです。するとお茶の水差しに僕のガラスを使うことになって、茶の湯のお稽古をはじめました。するとワインと茶道が近しいと気が付く訳ですよ」

 パリで過ごしたのは1967年から70年の3年間。その間に受けた影響が人生に大きな影響を与えたようです。自由と責任、個人主義で不干渉という暮らし方は慣れると快適で、ワインとの出会いが拍車をかけました。

「フランスの田舎のワイン産地に行って土地の人に何年が葡萄のいい年だったのかを聞きました。すると、それは45年でまさに神が葡萄のために用意したような気候で素晴らしいできだったそうです。でも愚かな人間は戦争をしていて、折角の葡萄を収穫しきれなかったと答えたんですね。鳥肌が立つ思いでした。ワインはラベルに書かれている以上の物語を秘めているんですね。さまざまな年代と各地のワインをその歴史や出来事とともに味わいました。ワインは酔うための飲物だけではないんです。神の血ですからね。教会や病院の寄付にワインだけのオークションが開かれるんです。ワインだけは特別なんですね。浄財になる。
70年に大阪万博が開かれたでしょ、あの時にのんびりとしたパリにいたらクリエーターとして置いてきぼりになると思って帰国したんです。あれがなかったらパリで一生住んでいたんでしょうね。きっと」

 その頃、西武百貨店の堤清二さんらとの雑談の中から無印良品が生まれていったのだそうです。
「あれは商品開発ではなく、思想でした。ライフスタイルの提案だから、生活の中の全てが対象です。炬燵布団にまでフランスのデザイナーブランドが喜ばれている時代に、ノンブランドのシンプルな生き方を提案したんです。パリで暮らしていなかったら、発想できなかったことは沢山ありますよ。パリへ行ってはワインを持ち帰って仲間とパーティー開いて、ワインのおいしさや楽しさを広げていたんです。そうしているうちに、フランスのメーカーや日本の輸入代理店から、ボージョレーヌーボーを何とか日本にも知ってもらえる方法がないかって相談受けました。その時「造ったフランス人より8時間も早く飲める」と話したのです。日本人は初ものが好きですからねこの一言がきいたのですね。マスコミにも受けてブレイクしました」

ワインに関するエピソードは枚挙にいとまがないほどで、フランスの三つの産地からはシュバリエ(騎士)の称号を受けました。そして遂に今年は緑の勲章と呼ばれるシュバリエ農事功労章を受章。これは、軍事や芸術に与えられるレジオンドヌールの赤の勲章に対しての呼び名です。
 「パリにいる時からいろんなワインを飲んできましたが、体系的なことを知りませんでしたから、帰国してすぐにワインスクールに入ったんです。すると点で知っていたことが線でつながって明確に理解できました。あの勉強は楽しかった」

制約の美術といわれるグラフィックデザインですが、制約が多く無理難題があるほど「体が震える位面白い」とか。条件をクリアしながらの思考が楽しいという麹谷さんだからこその仕事と遊びなのでしょう。故郷奈良でもその一端を展開していただきたいものです。



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