今年の夏は冷夏で夏物の売れ行きも伸びず、景気に影響を与えているとか。そして農産物へのダメージが心配されています。やはり、汗を流してもいつものように夏は暑い方がいいようです。さて、秋はどんな気候になるのでしょうか。
九月といえばまずは重陽の節句。重陽とは奇数を陽数といい、最も大きな数字である九が二つ重なるところからの呼び名です。重九、または菊花の節ともいいます。宮中では古くから五節会が重要な行事として行われてきましたが重陽もその一つです。一月一日の正月節会、三月三日は上巳の節会、五月五日には端午の節会、七月七日に七夕の節会というように陽数の重なる日は大切な日として宴が催されたのです。
重陽の節会では紫宸殿で御前の瓶に菊の花を挿し、詩の披講が行われて宴となったようです。杯に菊花を浮かべた菊酒を酌み交わし、菊の花に真綿を被せて一晩置き、菊の露を移した菊綿で体を拭いて厄を払っていたとか。これは中国の周時代、穆王に仕えていた侍童が王の怒りに触れて流されたが、その土地で菊の露を飲んで不老不死になったという伝説によるものです。菊慈童や枕慈童という名前で能でも上演されますから、機会があればご覧になってはいかがでしょう。そして、菊酒を飲んで菊綿で体を拭ってみようかしら。敬老の日のプレゼントに、菊綿を添えてみるのもいいかもしれませんね。
20日がお彼岸の入りで23日は秋分の日、お彼岸の中日です。この季節にきっかりと花を咲かせるのが彼岸花。お彼岸の頃、大和路を歩くといたるところで色づき始めた田の畦に咲かせています。葛城古道、明日香村、仏隆寺などなど。強烈な日照りが続いた時も冷夏の時も他の花が咲き遅れたり急いだりしても、彼岸花だけは決まってお彼岸に咲くのです。名は体を表すといいますが、典型のような感じがします。
彼岸花には毒が含まれ、花を切ったら必ず手を洗うようにといわれますが、根には澱粉が多く、飢饉の時は根をすり下ろし、何度も晒して食用にしたとか。あざやかな赤い色は、飢えという恐怖に備える切ない色。田を縁取るようにして咲く花は精一杯稲を守り、人を守っているのですね。代々、田を耕してきた祖先の霊が魂を燃やしている色なのかも知れませんね。実りを前にした、最も大切な時にもろもろの邪を払いながら・・・。
印象的な赤い色には生命への執着、実りへの願いと感謝、飢えた日の記憶などが幾重にも重なっているのでしょう。だから、風景が懐かしくも優しく彩られていると思われてなりません。
明日香村では彼岸花祭りが開かれ、ひときわ賑わいます。そうそう、今年は飛鳥京ルネッサンスが9月20日から11月3日まで開かれ、飛鳥は古代と現代が深く重ね合わされる予定です。
1日は、立春から数えて二百十日目。この頃は台風が日本へ来る時でもあり、稲の開花時期を迎えた農家では、気象予報が気になる頃です。日中の暑さは夏のようでも8日が白露、11日、十五夜と季節は秋へ秋へと移っていきます。耳を澄まして、秋の音を聞いてみましょう。
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