長炎暑のあとは残暑と暑さにかかわる話題には事欠かない今年の夏でした。いよいよ10月を迎えて遅ればせの秋。街路樹の花水木は早くも赤い実を付け、プラタナスにも枯葉が目立ってきました。夏を惜しむように咲く槿の傍らにはススキの穂が立って、ひそかな季節のせめぎあいを感じます。
新薬師寺や白毫寺では萩の花がこぼれ、般若寺にはコスモスが風に揺れて、人々は花の間をそぞろ歩きながら秋に体を委ねているようです。秋の花はどこかひそやかで心が惹かれるものですが10月はなんといっても実りの月。収穫を祝う祭りが行われ、心満たされる季節ですね。実は種を宿し、生命が受け継がれていきます。万物が命を謳歌する春には溢れるような活気がありますが、秋の実りの頃は穏やかな喜びが満ちてきます。
明日香村では案山子コンテストが開かれ、大変な賑わいだったようですが、棚田の収穫は無事終わったのでしょうか。
炎暑と台風、おまけに地震までという忙しい気候の中で稲はしっかりと実っていたのですね。
かつて、米を計るのに石を使っていました。たとえば大名の格を表して加賀百万石、旗本五千石などというように。一石は十斗、百升、千合ですが、今では何となくピンとこない単位です。一升という単位は1.8リットルびんなどでよく使われていますから、その百倍が一石だといえば分かりやすいでしょうか。そうそう、お米を炊く時は今でも合ですよね。昔の人は米をよく食べたようで1日に3合は普通だったとか。1年は365日ですから一年に食べる米の量は約千合、つまり一石ということになります。そして一反の田圃から収穫できる米も一石。人間が一年間に食べる米が収穫できる広さが一反というわけです。一反は300坪ですが、東北では一反がもっと広いところがあったそうです。それは一石の収穫を基本にしたからなのでしょう。そして、この一石の米の値段が1両だったようです。もっとも、江戸時代にはインフレが激しくて、1両も軽くなったようですが。
かつての計量は人間を中心として考えられた方法だったことがわかります。1メートルという単位は子午線の4千万分の1の長さで地球を基準にしたものです。1グラムも水1立方センチメートルの重さですから、やはり人間以外のものを基準にしたものです。計り方ひとつを見ても東洋と西洋の考え方の違いが分かる気がしますね。
尺貫法が廃止されてから、長さや重さはメートル、グラムになりましたが、お米だけはいまだに合で計るというのはどうしてなのでしょうね。最新式の炊飯器だってやはり何合炊きなんて表示されているところを見ると、日本人とお米のつながりの深さが見える気がします。
10月は新米の季節です。今年の暑さをしっかり含んだお米は、さてどんな味でしょう。最近は土鍋で炊くご飯が見直されています。無印良品で開発した炊飯土鍋もベストセラーだったとか。おいしいご飯があれば、本当に幸せですから。せっかくおいしく炊いたご飯をもっとおいしくするのが“おひつ”です。寿司桶と同じようにサワラで作られる“おひつ”は、炊きたてのご飯を入れると余分な蒸気を吸収します。ご飯の粘りが引き立てられて、一層おいしくなるようです。ちょっとした手間で同じお米かしらと思うほどの変身ぶりです。一度試す価値はありそうですよ。
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