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暮らしの歳時記:11月(霜月)
 ほどなく自ら図面を描いて提灯の製作に取り組みます。「日常の暮らしの中にも質の高い芸術を」と考えていた彫刻家にとって照明は天からの啓示のようだったのでしょう。和紙と竹を使ったさまざまな照明「あかり」が作られていきます。彫刻作品を所有するのはなかなか大変ですが、照明なら空間的にも費用の面からも手に入れることができます。

 伝統的な素材を用いながら、アートのようなデザインの照明は、和室をモダンに、洋室を落ち着いた雰囲気に変えてしまう不思議な力を持っています。

 古社、名刹が点在する奈良ですから提灯の歴史も古く、その素晴らしい技も伝え継がれてきました。えさき提灯店では今も手作りの提灯が作られていますが、その傍らにはイサム・ノグチの照明も置かれています。伝統の技と芸術家の出会いから新しい命が吹き込まれることになった提灯素材の照明、手元に置いてみたい品物です。

 季語では夜長が秋、短日は冬ということになっています。夜が最も長いのは冬至ですから、冬こそ夜長という気もしますが、俳句ならではの詩的な情緒なのかも知れませんね。日永が春、短夜が夏の季語というように。和紙を通したやさしい明かりの中でさて、どの本を読もうかしら。

 朝夕の冷え込みが身にしみる季節です。日中でも思いがけないほどの冷たい風が通りを吹き抜け、木枯しがやってくる11月。気温が低くなるほどに日暮れも早くなり、何やら追われる気分になって、つい足早になるのもこの頃。“つるべ落とし”と表現されるように秋の日没はするりと山の端へ消えていきます。残照もほんのつかの間で空は早々と夜仕度。その分夜が長くなって、昔なら“夜なべ仕事”となったのでしょうか。

 夜、何となくつけているテレビを消して、静かに過ごしてみるにはいい季節です。縫い物、編み物、刺繍といった手芸に取り組んだり、本を読んだり。そんな時に気に入りの灯りがあると心も弾みます。奈良町の提灯店で見つけたのはイサム・ノグチの「あかり」です。和紙を透した柔らかな明かりはほのぼのと暖かく、室内のアクセントにもなって素敵です。
  アメリカで最も重要な彫刻家な一人として脚光を浴びていたイサム・ノグチは昭和26年、広島平和公園での仕事のために来日します。その時、鵜飼いを見るために立ち寄った岐阜で提灯を目にしたのです。岐阜は良質の和紙や竹の産地に恵まれて、古くから提灯が作られてきた土地です。宝暦年間(1751〜1764)には提灯の名人が生まれ、江戸や京都でも評判となったとか。細い竹ひご、薄く漉かれた美濃和紙で作られた提灯は同じろうそくでも一際明るく周囲を照らしたのです。そんな提灯にイサム・ノグチは大変な興味を抱き、早速工房を訪ね、熱心に作業を見学したそうです。

ご好評いただいております「暮らしの歳事記」は、より和の心を具体的に楽しむページを目指して11月よりスタートいたします。
第1回目の今月は「夜長」と題して温もりを感じる和紙の照明をご紹介しています。
読者プレゼントにと取材先のお店からご協賛をいただきました。ご興味のある方はぜひご応募してください。
■商品提供 「えさき提灯店」奈良市脇戸町20-1 TEL:0742-22-4735 
営業9時〜19時 8・18・28日休(土日にあたる時は月曜)
イサム・ノグチシリーズは全て手に入る。(写真は高さ39cm、幅25cm)