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 いよいよ12月。師走と聞いただけで何やら慌ただしい気がするものですが、春待月、年積月、限月などの名も持つようです。この季節になると日々の過ぎ去る早さに加速度がつく感じがするのは、年齢のせいでしょうか、社会全体の変化の忙しさのせいでしょうか。

 地球が太陽のまわりを一回転するのにかかる時間が一年です。では、実際どの位の速度で回っているのでしょうか。計算によると時速何と約10万キロ、一秒間では約30キロの速さになるのだそうです。地球上に住む私たちにはその速度を体感することはできませんが、ものすごいスピードで回っているのですね。しかも地球は自転もしていて、こちらの早さも計算すると赤道付近で一秒間に約460メートル。これも音速より速いのです。悠久の時を刻む宇宙の中で、地球は生まれた時からこの速さで回転し続けてきたのですね。地球の速度を思いながら、今年最後の月をできるだけゆったりと過ごしたいものです。

 奈良の12月といえば春日大社のおん祭を抜きには語れないほど盛大で民俗学的にも重要なお祭りとして知られています。春日大社は奈良時代末、神護景雲2年(768)に鎮座したと伝えられていますが、長保5年(1005)、本殿の第4御殿に不思議なことがあって神主が赴くと若宮神が出現していたといいます。平安末の保延元年(1135)には独立した社殿が設けられ、翌年9月17日に関白藤原忠通によって大和一国を挙げてのおん祭が行われたのです。若宮とは名前の通り、若く力強い神様で雨をもたらす水神、農業の守護神として信仰されてきました。奈良の人々はおん祭といっただけで春日若宮の祭りを思いうかべるのです。

 祭の仕度は7月の流鏑馬馬定から始められていますが、12月15日の大宿所祭からが一般的です。餅飯殿商店街にある大宿所にはお渡りに使われる武具や華やかな装束が披露されるほか、供物の鮭や雉などがずらりと掛け並べられ祭の雰囲気を盛り上げます。また、人々のけがれを払うため、巫女による湯立神事も行われるのです。

 さまざまな準備が整うといよいよ神様をお旅所へ移す御遷幸の儀が執り行われます。17日夜11時頃出御を促す案内がされた後、午前零時に全ての燈火を消し去った闇の中、松明の火で清められた参道を、神職たちによって何重にも取り囲まれた御神霊が山を下りていきます。神官たちは榊を持ち「おー、おー」という警蹕(けいひつ)の声と共にゆるりと歩みを進めていきますが、その森厳な雰囲気は身震いするほど感動的です。隣にいる人の顔さえ判別できない暗さ、凍えるような冷気の中で、山が動く、地が鳴ることを実感すると自然と手を合わせてしまいます。

 全国的にも珍しい貴重な祭りがほんの身近な所で860年以上も続けられているのですから、ぜひとも一度は経験したいものですね。翌日の昼間にお渡りの華やかな行列が古都の大路を練り歩きます。おん祭というとこの華麗なお渡りに目を奪われますが、なかなか奥が深いものです。お渡りは、一の鳥居をくぐったあたり「影向の松」の下で芸能を披露します。この松は春日大明神が翁の姿で現れ、舞いを舞ったという伝説のあるところです。能舞台の鏡板には必ず松の絵が描かれますが、それはこの「影向の松」なのです。やはり奈良の懐はどこまでも深いのですね。

 おん祭が終わると奈良は一気にお正月への仕度が整えられていきます。午から羊へ、静かに、平穏にと祈るばかりです。

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12 月 師走
大宿所祭湯たて神事
 
メールにもちょっと時候の挨拶
「クリスマスと聞いて、えーもう!なんて思うようになったのはいつからでしょう。若い頃はあんなに楽しみだったのに。プレゼントをもらう方からあげる方になったがその分かれ目でしょうか。」
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「 年賀状の準備できましたか?パソコンで作るか木彫りにするか迷っているうちに日が過ぎる!」
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「帰り道、空を見上げたらオリオン座が輝いていました。オリオンの右肩にあるオレンジ色の星はペテルギウスでしたよね。星座の授業を思いだしました。」
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「温暖化っていわれるけれど、やっぱり冬は寒いですね。特に朝が辛いです。」
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「奈良公園を通りかかったら、人気のない芝の原を鹿がとぼとぼ歩いていました。ついこの間まで多くの観光客にせんべいをもらっていたのに。冬ですね。」