廃棄物処分場付近にある学校の衛生問題


2002311

CSN #228

アメリカの子供たちが通っている学校の一部が、廃棄物処分場の近くに建てられており、喘息、発がん、学習障害などの環境汚染物質に関連した疾患のリスクが、それにより増大している可能性があるのではと懸念する研究報告が発表されました。

この研究報告は、有害廃棄物市民情報センター(CCHW)として1981年に設立された全米唯一の全国組織である、健康環境正義センター(Center for Health, Environment and Justice: CHEJ) Child Proofing Our Communities Campaign”と呼ばれる全国環境キャンペーンが2002120日に発表した研究報告で、主に学童数の多い、マサチューセッツ州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ミシガン州、カリフォルニア州の5つの州に焦点をあて、60万人以上の学童が通う約1,200の公立学校は、アメリカ連邦のスーパーファンド・サイト(環境汚染を及ぼす可能性のある約4万の廃棄物処分場のうち国家優先リスト(NPL)にあげられたサイト)や各州政府が同定した汚染サイトから半径0.5マイル(約800m)内に立地していると報告しました[1][2]

アメリカニューヨーク州ラブキャナル地区では、1930年代から1940年代にかけて埋め立てられた化学系産業廃棄物の処分場跡地やその周辺において、1950年代に住宅や学校が建設されました。そして1978年に、そこに住む住民において、低体重児出生(2,500g未満の未熟児)、流産、障害児出生の比率が他の地区より高こと、地下水・下水道・土壌・住宅の室内空気から、ベンゼン・塩化ビニル・ポリ塩化ビフェニール(PCBs)・ダイオキシン類・トルエン・トリクロロエチレン・テトラクロロエチレンなどさまざまな有害性の高い化学物質が検出されたことが大きな問題となりました[3][4]

CHEJは、ラブキャナル地区での事件当時に市民活動を行ったメンバーらによって設立された組織で、同様の問題が生じないように、その後も活動を続けていました。

表1に、この研究によって報告された5つの州における、廃棄物処分場から半径0.5マイル以内に立地している学校数と、そこに通う学童数を示します。

表1 廃棄物処分場から半径0.5マイル以内に立地している学校数と学童数[2]をもとに作成)

調査対象州

調査結果

公立学校数

学童数

マサチューセッツ州

818

407,229

ニューヨーク州

235

142,738

ミシガン州

64

20,999

カリフォルニア州

43

32,865

ニュージャージー州

36

18,200

1,195

622,031

 

この研究報告は、研究の対象とされた廃棄物処分場から半径0.5マイル以内に立地している学校と、その他の学校に通う学童の健康状態を比較していないため、喘息や学習障害などの健康状態に関して何らかの統計的な有意性を見出したわけではございません。

しかしながら、アメリカでは過去20年間において、子供の喘息、発がん、知能指数(IQ)低下、学習障害などが増加しており、子供たちが家庭や学校などで有害化学物質に曝露していることが原因の1つではないかと研究者らは懸念しています。

この件に関しては、「社会正義のための偉大なるボストン医師団:Greater Boston Physicians for Social Responsibility (GBPSR)」が、20005月に発表した報告書の中[5]で、子供たちの学習や行動傷害などの神経発達に対して、どのような有害化学物質が関与しているか報告しており、これらの神経発達に対しては、遺伝的要因や社会環境要因などが複雑に作用しているため有害化学物質だけの要因として考えることはできないが、「有害化学物質への曝露はこれらの影響に対する予防が可能」として、綿密に調査する必要があると述べています[5][6]

 

イギリスではイギリス保健省(Department of Health: DH)が、廃棄物処分場に関わる健康影響調査プログラムを実行[7]しており、ロンドン大学インペリアル・カレッジ セントマリー校 疫学公衆衛生部が、イギリス保健省に対して「廃棄物処分場周辺地域に住む人々における出生と発がんに関する調査:Birth outcomes and selected cancers in populations living near landfill site[8][9]20018月に報告しています。

それによると、廃棄物処分場の周囲2km以内に住む人たちは、それ以外の地域に住む人たちに比べ、先天性異常、低体重児出生、超低体重児出生に関するリスクがやや大きいが、発がん性に関しては、リスクに差はないと述べています。また、このような結果が生じた理由は、現時点では説明できず、今後さらに研究を行う必要があると述べています[9]

アメリカのCHEJによる研究報告は、子供の健康影響との関連性については明確に示されておりませんが、GBPSRの報告書による子供の健康と有害化学物質曝露との関連性に対する懸念や、イギリスの調査において、廃棄物処分場周辺地域に住む人たちに対し、出生に関わる健康影響リスクの増加が懸念されていることなどから、子供の健康を考える上で非常に重要な提案だと思われます。

CHEJによる研究報告に対して、アメリカ環境保護庁(USEPA)のスポークスマンは、「スーパーファンド・サイトからの有害化学物質への曝露に関して州政府に警告するためのプログラムを開始した。」[1]と述べており、廃棄物処分場周辺地域に住む人たちの健康影響に関しては、特に子供への影響を含め、今後さらなる詳細な疫学調査を行う必要があると思われます。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1]Eric Pianin and Michael A. Fletcher:Many Schools Built Near Toxic Sites, Study Finds,Washington Post,pp A02, January 21, 2002
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A11893-2002Jan20.html

[2] Child Proofing Our Communities Campaign,Center for Health, Environment and Justice:CREATING SAFE LEARNING ZONES: INVISIBLE THREATS, VISIBLE ACTIONS,January 20, 2002
http://www.childproofing.org/

[3] Martine Vrijheid: “Health Effects of Residence Near Hazardous Waste Landfill Sites”, Environmental Health Perspectives, Volume 108, Supplement 1, pp101-112, March 2000
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2000/suppl-1/toc.html

[4]安原昭夫,しのびよる化学物質汚染,合同出版, 1999 

[5] Ted Schettler et al.: “IN HARM'S WAY: TOXIC THREATS TO CHILD DEVELOPMENT”, Cambridge, Mass.: Greater Boston Physicians for Social Responsibility (GBPSR), May 2000
http://www.igc.org/psr/

[6] Kenichi Azuma: “子供の発達への影響”, CSN #165, December 11, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Dec%202000/001211.htm

[7] Department of Health,Health Effects in relation to Landfill sites - Update on research, August 2001
http://www.doh.gov.uk/landup.htm

[8] Committee on Toxicity,Department of Health, “Study by the Small Area Health Statistics Unit (SAHSU) on health outcomes in populations living around landfill sites”, COT/2001/04, August 2001
http://www.doh.gov.uk/landfill.htm

[9]Report to the Department of Health; Department of Epidemiology and Public Health, Imperial College St Mary's Campus, “Birth outcomes and selected cancers in populations living near landfill sites”, August 2001


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