フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの毒性評価の動向


2000年4月10日

CSN #130 

フタル酸エステルは、環境庁が示した67種類の内分泌攪乱化学物質(以下、環境ホルモン)に含まれており、その中の代表的なフタル酸エステルが、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)です。塩化ビニル樹脂(PVC)、ニトロセルロース、メタクリル酸樹脂等の可塑剤として広く使用されており、表1に示す様々な用途に使用されています。軟質塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルに柔軟性を与えるためにDEHPなどの可塑剤を10-60%程度加えています 

表1 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の用途例

分野

用途例

建材

床材、舗装材、屋根材、壁紙、樹脂コーティング材、チューブ、コンテナ、電線被覆材、ケーブル被覆材

カー用品

ビニル製内張り、シート素材、車体の底面のコーティング材、トリム

衣服

ビニル製シューズ、ビニル製レインコート、ビニル製バッグ、テーブルクロス、衣類包装用フィルム

子供用品

おもちゃ、ベビーベッドの緩衝材

医療材料

輸液バッグ、輸液チューブ

その他

農業用フィルム

アメリカやカナダでは、哺乳瓶の乳首、歯固め、おしゃぶり、ガラガラなど乳幼児が口に入れる可能性がある玩具において、DEHPはすでに使用されていません。その傾向は欧州にもみられ、欧州委員会はこれまで3年間かけて、子供が口に入れる可能性のある玩具に対して軟質塩化ビニル樹脂の使用を禁止してきました[1] 

DEHPには生殖毒性の疑いがあり、アメリカ国家毒性計画のヒューマン・リプロダクション評価センター(CERHR)が、専門家会合を第1回1999817- 19日、第2回1215- 17日に開催し、ドラフトを発表しました[3]。動物を用いた経口投与の研究によって、流産、奇形児、生殖能力低下、異常な精子数、精巣の損傷を引き起こす可能性があることが示されました。そのため専門家会合のメンバーは、私たちが毎日摂取している食品(特に、肉、魚、油)中におけるDEHP濃度に対して、強い懸念を示しました[1] 

第2回の会合で発表されたドラフトによると、人のDEHP摂取量は、表2のように試算されています。表2からは、食物からの摂取量が多いことや、4歳以下の乳幼児の摂取量が特に多いことがわかります。食物に多く含まれる理由は、食物連鎖によって小型の生物から大型の生物へと蓄積されていくこと、DEHPを含む材料の加工・包装・保管中にDEHPが浸み出してくることが考えられています。また、乳幼児や子供は生理学的にも肉体的にも未熟なため影響を受けやすいこと、子供は大人よりも呼吸量が多く活発であることなどが考えられています。 

表2 人のDEHP概算摂取量[3]をもとに作成)

 

概算摂取量(μgkg 体重/日)

Medium

0.5- 4

20- 70

研究者、発表年

大気(五大湖周辺)

0.00003- 0.0003

0.00003- 0.0003

Eisenreich 1981

室内空気

0.99

0.85

Otson and Benoit 1985

飲料水

0.06- 0.18

0.02- 0.06

Spink 1986

食物

17.8

4.9

NHW 1992

土壌

0.00004

0.000003

Golder Associates 1987

子供用品

<< 0.00894.07

 

Rodericks and Turnbull 1984

2000712- 13日にCERHRによる最終会合が開催され、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジ-イソデシル(DIDP)、フタル酸ジ-イソノニル(DINP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、フタル酸ジ-n-ヘキシル(DnHP)、フタル酸ジ-n-オクチル(DnOP)に関するモノグラフが、アメリカ政府が発行する科学雑誌「Environmental Health Perspectives」に掲載される予定です[4] 

 

一方、DEHPは、これまで国際がん研究機関(IARC)の発癌性の分類において、クロロホルム、鉛、スチレンなどと同じグループ2B(人に対して発がん性を示す可能性がある)に分類されていました。ところが最近、IARCにおいて見直しが行われ、日2000年2月23日にコレステロール、トルエンなどと同じグループ3(人に対する発がん性について分類できない)へ変更すると発表しました[2] 

DEHPは、私たちの生活に深く入り込み、様々な製品に使用されています。それゆえ環境ホルモンの疑いがクローズアップされて以来、世界各国で様々な毒性に関する再評価が行われています。できるだけ早く、現在の私たちがどれほどのリスクにあるのか明確にし、必要な対策が行われることを願います。

Author:東 賢一 

<参考文献>

[1] Chemical Safety News (CSN), CSN #116, 30 December 1999
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Dec1999/991230.htm
「欧米におけるフタル酸エステル削減の動き」

[2] IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume 77, 152 February 2000
http://193.51.164.11/htdocs/announcements/vol77.htm
“Some Industrial Chemicals”

[3] CERHR News, The Center for the Evaluation of Risks to Human Reproduction (CERHR), 2 December 1999
http://cerhr.niehs.nih.gov/news/index.html
“Phthalates Draft Data Summaries and Integrations”
Di-(2-Ethylhexyl) Phthalate (DEHP) - 12/3/99; Exposure Section Revised 12/8/99

[4] NTP-CERHR Announces the Final Meeting of the Phthalate Expert Panel, April 4, 2000
http://cerhr.niehs.nih.gov/news/pr4_4_00.html


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