ノルウェーの室内空気質(IAQ)ガイドライン
2001年4月30日
CSN #184
1999年12月にノルウェーの国立公衆衛生研究所(National Institute of Public Health: NIPH)環境医学部R. Bechrらが発表した報告書[1]から、ノルウェーの室内空気質(Indoor Air Quality: IAQ)に関するガイドライン「室内空気質の推奨ガイドライン:Recommended Guidelines for Indoor Air Quality」を紹介します。
このガイドラインは、ノルウェー厚生省(The Norwegian Department of Health and Welfare)が国立公衆衛生研究所(NIPH)に対して、より実用的なリスク評価手法を用いて既存の室内空気質ガイドラインを見直すよう指示し、改訂されたものです。このガイドラインは、労働環境や国民の健康に関連した室内空気に対して健康関連の行政機関が取り組む上で、重要なツールになることが目的とされています。
この報告書では、「室内空気汚染物質が測定できたとしても、健康影響と室内環境曝露との因果関係が明らかになることはまれであるため、科学的知見が不十分ではあるが、昨今の室内空気質に関わる問題の大部分は解決可能である。室内環境要因が健康影響を引き起こすメカニズムは十分にわかっていないが、予防のための基本原則と健康回復手段は広い範囲で合意があるため、これらの合意手段の大部分が既成のリスク状況を避けるための基本となる。」と述べています。
この報告書の中で、室内空気質問題の要因を解明する段階的手順に関する勧告が述べられていますので、概要を以下に示します。また、健康影響をベースとした室内空気質のガイドラインを表1に示します。
表1 健康影響をベースとした室内空気質のガイドライン([1]をもとに作成)
対象物質 |
ガイドライン |
たばこの煙 |
全般的なガイドライン 現実的なガイドライン
|
湿気と微生物汚染 |
ガイドライン案
|
ラドン |
ガイドライン案 |
揮発性有機化合物 |
ガイドライン案 |
アスベスト |
ガイドライン案
現実的なガイドライン |
人工鉱物繊維 |
ガイドライン案 |
浮遊粒子状物質 |
ガイドライン案 |
PM2.5:平均粒径2.5μ以下の微粒子
日本の現状と室内空気質への取り組み(附設)
石造物を中心とした北欧の建物では、カビなどの微生物やラドンによる室内空気汚染がよく取り上げられます。しかし現在の日本では、内装材、塗料、接着剤、殺虫剤に含まれる揮発性有機化合物(VOCs)などの化学物質による室内空気汚染が問題となっています。
VOCsなどの化学物質のガイドラインに対する北欧の考え方は、個々の化学物質ごとに議論されるべきだとされています。WHO欧州事務局が2001年1月に発表した欧州空気質ガイドライン第2版[2]でも、個々の化学物質に対するガイドラインが設定されています。
日本では厚生労働省によって、ホルムアルデヒドやトルエンなどの化学物質の室内濃度指針値が設定されています。またさらに、個々のVOCsの総量を示す総揮発性有機化合物(TVOCs)の暫定目標値400μg/m3が設定されています。日本の一般的な新築住宅のTVOCsは竣工直後で数千μg/m3と高いのが現状です。またホルムアルデヒドの室内濃度指針値を設定してもアセトアルデヒドの室内濃度が増加する、トルエンやキシレンの室内濃度指針値を設定してもヘキサンなどの室内濃度が増加するといったことが生じるため、個々の化学物質の室内濃度指針値だけでは早急な対策が行えないからです。
日本での室内空気汚染はVOCsなどの化学物質に対する問題が大きく、建物に使用する材料に対して抜本的な取り組みが必要とされています。日本では何故このような状況になったのかを十分解析した上で、日本は産業社会の構造も含めて化学物質の適用のあり方を見直す必要があると思われます。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] R. Bechr et al., “Guidelines for Indoor Air in Norway-Apractical Aproach”,
WHO Collaborating Centre for Air Quality Management and Air Pollution Control, Newsletter, No. 24, December 1999
http://www.umweltbundesamt.de/whocc/nl24/norway.htm
[2] Air Quality
Guidelines for Europe 2nd edition. Copenhagen, WHO Regional
Office for Europe, January 26, 2000 (WHO Regional Publication, Europeans
Series, No. 91)
http://www.who.dk/
(解説)
Kenichi Azuma, WHO欧州事務局による空気質ガイドライン第2版, CSN #176, March 5, 2001
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/March2001/010305.htm