日焼け止め剤の使用と日光を浴びる時間


1999年8月6日

CSN #085

私たちが日常浴びている日光には、紫外線が含まれています。紫外線は、その波長の長さによって、紫外線A、紫外線B、紫外線Cに分類されています。紫外線Cは、成層圏のオゾン層に吸収され地表には届きませんので、私たちが浴びる紫外線は、紫外線Aと紫外線Bになります。その中で紫外線Bは、表皮に作用してメラニン色素を作るため皮膚が褐色調になり、日焼けを起こします[1] 

紫外線を防止するために、日焼け止めクリームなどのサンケア用品として、日焼け止め剤が販売されています。このサンケア用品には、パラアミノ安息香酸系、サリチル酸系などの紫外線吸収剤や、酸化チタン、カラミン、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの紫外線散乱剤が含まれています[2] 

サンケア用品には、紫外線防止効果を表す指標として、サンケア指数(SPF)が表示されています。この数値は、日焼けを起こす紫外線量を調べて決められます。例えば、SPF10の日焼け止め剤は、何も塗らないときの 10倍の紫外線量を受けて、初めて赤くなることを示しています。SPF30の日焼け止め剤は、赤くなるには 30倍の紫外線量が必要ですので、同じ紫外線量であれば、SPF10の日焼け止め剤よりも 3倍日焼けに時間がかかることを示しています。 

SPF値=A/B

A:サンケア化粧品を塗った皮膚でサンバーンを起こすのに必要な最小紫外線量(時間)

B:サンケア化粧品を塗らなかっら皮膚でサンバーンを起こすのに必要な最小紫外線量(時間)

*サンバーンとは、炎症を起こすほどの日焼けのことで、皮膚に紅斑(赤み)や水ぶくれなどを起こします。

 

一方、日焼け止め剤の使用は、皮膚黒色腫、基底細胞皮膚癌、異常に多い母斑といった疾患のリスク増加に関連しているとの疫学研究が報告されています[3]。そのようなことから、199984日付けの英国立癌研究所雑誌において、日焼け止め剤の使用と日光を浴びる時間に関わる研究結果が報告されています。 

日焼け止め剤の使用は、サンバーンの発生を遅らせるので、結果的に日光に浴びる時間を引き延ばし、日焼けを促進する可能性が指摘されてきました。そこで研究者らは、通常の日焼け止め剤使用条件のもとで、サンケア指数(SPF)が異なる日焼け止め剤が、日光に浴びる時間に影響するかどうかについて調査しています。 

調査は、1997年の夏期休暇の前に、年齢が 18-24歳のフランスとスイスの 87人の調査対象者を無作為に抽出し、SPF 10 SPF 30の日焼け止め剤をグループに分けて配布しました。そして調査対象者は、毎日日光を浴びた状況を記録し、試験終了時に休暇前後における色素沈着した皮膚障害の数が示されました。調査の結果を表1に示します。 

表1 SPF値が異なる日焼け止め剤の使用と日光を浴びる時間との関係

調査項目

SPF 10 (n = 44)

SPF 30 (n = 42)

連続休暇日数の平均値

19.4

20.2

日焼け止め剤塗布量の平均値

72.3g

71.6g

日光を浴びた累積時間の平均値(P = 0.011)

58.2時間

71.6時間

1日当たり連続して日光を浴びた時間の平均値
(P = 0.0013)

2.6時間

3.1時間

1日当たりの屋外活動時間の平均値(P = 0.62)

3.6時間

3.8時間

試験終了後のサンバーンの状況

両グループ間に差はなかった

*( )内は、両グループ間の統計値間の有意性を示します。数値が小さい方が両グループ間の差に統計的に意味があると考えて下さい。

 

この結果は、SPF値が高い、つまり紫外線防止効果が高い日焼け止め剤を使用しても、日光を浴びる時間が増加し、サンバーンの状況に変化がないことを示しています。研究者らは、高い紫外線防止効果を持つSPF日焼け止め防止剤の使用は、20歳前後のヨーロッパの白人において、レクレーション上での日光を浴びる時間を増大するようだと結論づけています。 

この調査結果から、日焼け止め剤を使用することで日焼けに対する安心感が増し、結果的に日光を浴びる時間が増大することが考えられます。日焼けを防止するために日焼け止め剤を使う場合は、このようなことにも注意することが大切だと思います。 

ただ日光を浴びることに関して言えば、皮膚に炎症を起こすほど過度に浴びると悪性黒色腫などの有害な影響が心配されますが、ビタミンD生成や精神衛生上などの有益な効果があります[1][4]。炎症を起こすほどに日焼けすることは避けるべきですが、有益性を考慮し、ほどよく健康的に日光に当たることが重要だと思います。

 

Author: 東 賢一

<参考文献>

[1] 「日焼けで致命傷になるのか?」住まいにおける化学物質、CSN #078
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/July1999/990717.html
 

[2] 「誤飲物質の毒性検索システム」外来小児科学ネットワーク
http://city.hokkai.or.jp/~satoshi/TOX/tox.html
 

[3] Philippe Autier, Jean-Francois Dore and others, 悪性黒色種研究治療の欧州組織
英国立癌研究所雑誌, Journal of the National Cancer Institute, Vol. 91, No. 15, 1304-1309, August 4, 1999
http://intl-jnci.oupjournals.org/cgi/content/abstract/91/15/1304
 

[4] Andrew R Ness, Stephen J Frankel and others, “Are we really dying for a tan? ”
英医学会雑誌(BMJ), British Medical Journal, 1999;319:114-116 ( 10 July )
http://www.bmj.com/cgi/content/full/319/7202/114
 


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ