遺伝子組み替え技術の最近の動き
1999年8月14日
CSN #088
1999年8月10日、農水省から遺伝子組み替え食品の表示義務付け最終案が発表されました。2001年4月から豆腐、みそ、枝豆、納豆、煮豆、豆乳、コーンスナック菓子など30品目について、遺伝子組み替え作物やその可能性がある場合に、その表示を製造業者や輸入業者に義務づけるという案です。その概要を表1に示します[1]。
表1 表示が義務づけられる食品と表示内容
表示内容 |
食品 |
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遺伝子組み替えと表示 |
高オレイン酸大豆、同大豆油、その製品 |
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GM使用の場合 |
遺伝子組み替え |
豆腐、豆腐加工品(油揚げ、がんもどきなど)、凍り豆腐、おから、ゆば、調理用大豆、枝豆、大豆もやし、納豆、豆乳、味噌、煮豆、大豆缶詰、きな粉、いり豆、コーンスナック菓子、コーンスターチ、生食用トウモロコシ、ポップコーン、冷凍トウモロコシ、缶詰用トウモロコシ、以上を主原料とする食品 |
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GM混入の可能性 |
不分別 |
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GM不使用 |
遺伝子組み替えでない |
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GM使用であっても、表示の義務がない主な食品 |
しょうゆ、大豆油、コーンフレーク、水あめ、異性化液糖、コーン油、菜種油、綿実油、マッシュポテト、ジャガイモでんぷん、ポテトフレーク、冷凍・缶詰・レトルトのジャガイモ製品 |
GM: Genetically Modified(遺伝子組み替え)
この案では、醤油、液糖、食用油、コンスターチを使っているビールなど、現在の科学的検査法で検出できない食品は、表示対象外になります。消費者団体などは、原材料に遺伝子組み替え作物を使っているのであれば、それを用いた加工品全てに表示をしてほしいと要望しています。消費者は、検出できるかどうかではなく、原材料として使っているかどうかについて知りたいのです。アメリカやヨーロッパはおろか、世界中で問題になっている遺伝子組み替え食品の表示問題については、今後も関心を持ってその動向を見て行く必要があると思います。
このように、表示に関して問題になっている遺伝子組み替え食品ですが、厚生省の安全性確認を受けていない遺伝子組み替え作物を使ったコーンスナック菓子が国内で見つかりました。これは、市民団体「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」(事務局・日本消費者連盟内)が独自に調査した結果を発表したもので、米国の検査会社に依頼して調べたコーンスナック菓子など19品目のうち、スナック菓子3品目に厚生省が安全性を確認していない遺伝子組み替えトウモロコシが含まれていることが確認されました[2]。このことは、厚生省が安全性を確認したものだから表示はいらないとする根拠が崩れたことを意味します。
最近、遺伝子組み換え作物の有害性に関して、1999年5月20日号の英科学雑誌「Nature」で米コーネル大学の研究グループが、遺伝子組み替えが行われたトウモロコシの花粉を振りかけたトウワタの葉でオオカバマダラ(Danaus plexippus)というチョウの幼虫を育てると、遺伝子組み換えしていない普通のトウモロコシの花粉を振りかけた葉や、花粉がまったくついていない葉で育てた幼虫に比べて、食べる量が少なくて成長が遅く死亡率が高くなり、実験の結果4日間で44%の幼虫が死んだと報告しています[3]。このことは、遺伝子組み替えトウモロコシの花粉の飛散によって、周囲のチョウに影響を与えたことを示しています。
また、1999年8月5日号の英科学雑誌「Nature」で米アリゾナ大学の研究グループが、遺伝子組み替えにより殺虫成分を持たせた綿花を食べても死なない蛾は、その耐性が子孫に遺伝する確率が高いとみられる実験結果を発表しました[4]。この蛾は、ワタアカミムシと言う害虫で、耐性を有したワタアカミムシは、通常のワタアカミムシと比べて成熟が平均5.7日遅いため、耐性をもつもの同士の交尾の可能性を高めているためと考えられています。つまり、殺虫成分をもたせた遺伝子組み替え作物を栽培しても、このような殺虫成分に耐性をもつ蛾が生き残れば、作物は打撃を受ける可能性があることを示しています。
遺伝子組み替え技術の適用は、昨今話題になっている農作物だけではありません。家畜や魚への適用も研究されています。特に成長を促進する遺伝子組み替え技術の研究が行われています。7月29日BBCニュースにおいて、遺伝子組み替えサケの安全性に関する記事が掲載されました[5]。
1996年から1年半の間、スコットランドの養殖場で実験的に育てられたサケは、通常のサケより4倍早く成長するように遺伝子組み替え技術が導入されました。このサケは、売れる大きさになるまで3年ではなく12-18か月で成長します。チヌックサケから得られた成長ホルモン遺伝子を10,000個のアトランティックサケの卵に導入し、独立した陸上の水槽で1年間育てられました。その結果、約50匹が4倍の速度で成長し異常は見られませんでした。実験終了後、この50匹のサケは処分されていますが、英国議会でこのサケの安全性について議論が行われています。
この技術は、水槽のサケを半分の期間で回転させることができ、2倍の利益を挙げることができます。殺虫剤耐性や除草剤耐性の遺伝子組み替え作物が収穫量を増やすことと同じ目的です。
英国議会の議論の中で、スコットランド緑の党のロビン・ハーパー議員が研究の行く末をこのように警告しています。「もし魚が北大西洋に逃げたら、北大西洋やスコットランドの川の生態に言い尽せない打撃を与えるであろう。」しかし、サケを生産している9カ国は遺伝子組み換えサケの禁止に合意しました。
遺伝子組み替え技術に関する研究や議論は、国際的に大きく取り上げられています。それだけ、私たちにとって大きな問題なのです。今後も注意深く見守る必要があると思います。今年の7月に、カナダの科学ジャーナリスト、インゲボルグ・ボーエンズさんが書いた「UNNATURAL HARVEST:不自然な収穫」(日本語訳:関裕子、光文社)[6]が出版されました。この本は遺伝子組み替え食品に関して、その歴史と現状をわかりやすく解説しています。
Author: 東 賢一
<参考文献>
[1] 朝日新聞(朝刊)1999年8月11日
[2] 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン・ニュース
1999年7月29日、コーン関連食品分析検査結果
http://www.geocities.com/RainForest/Andes/3709/iden/idenx.html
[3] Nature、Vol.399, p214 (1999)
「住まいにおける化学物質」
CSN #055で概説しています
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/May1999/990524.html
[4] Yong-Biao Liu, Bruce E. Tabashnik and others,「Bt農作物への耐性と発育時期」
Nature Vol.400, p519 (1999)
[5] BBC News: http://news.bbc.co.uk/hi/english/sci/tech/newsid_406000/406654.stm
[6] インゲボルグ・ボーエンズ「不自然な収穫」訳者:関裕子