鉛を含む塗装除去時の6つのステップガイド

−オーストラリア環境遺産省−


200186

CSN #198

アメリカでは1950年代頃まで鉛を含む塗料が一般的に使用されており、1978年頃まで鉛を含む塗料が販売されていました。そのため、古い家屋の壁の塗装が剥がれ落ちることで発生した塵(ちり)や埃(ほこり)によって、室内空気が鉛に汚染されることが懸念されています[1] 

鉛による曝露は、消化管、神経系、血液、腎臓、免疫系に影響を与え、気分や人格の変化、知能発育遅滞、学習問題、低知能指数(IQ)、活動亢進、行動問題、不可逆性の腎障害を与えることがあります。発達中の子供の方が影響を受けやすいこと、子供の方が大人よりも体重あたりの呼吸量が多いことなどから、特に子供に対する影響が心配されます。

オーストラリアでも同様に、1970年代以前に建築された家屋では、鉛を含む塗料が多用されており、最近になっても一部の地域では、依然として鉛を含む塗料が使用されています。そのため1999年にオーストラリア環境遺産省(DEH)が、「自宅を塗装する際の6つのステップガイド第2版―鉛への警告―:The Six Step Guide to Painting Your Home. Second Edition,LEAD ALERT−」をまとめ、自宅の塗装の補修時や改装時における、鉛を含む塗装の除去作業ガイドを公開しました[2]

オーストラリアでは、1950年以前に建築された家屋では、50%程度の鉛を含む塗料が屋内外に使用されており、大まかな指針値として1970年に1%以下に制限されました。そして1992年には、家屋の塗装に使用する塗料の鉛の最大許容含有量を0.25%に勧告し、1997年にはさらに0.1%に引き下げました。現在オーストラリアでは、鉛含有量が0.1%を越える塗料に対しては、ラベル表示しなければなりません[2]

1 家屋で使用される鉛を含む塗料類[2]をもとに作成)

種類

使用例

鉛白(White Lead:炭酸鉛がベース)

白色顔料やパステル色用の調色顔料して内装外装用塗料の多くに使用。構造材、水切り板、窓枠、戸枠などのトップコート剤、家屋のセメント下塗り剤、都会のフェンスやガードレールなど。

ピンク色の下塗り剤
(鉛白と鉛丹)

内外部に使用する材木の下塗り剤、漆喰の壁の塗工用下塗り剤、水切り板のトップコート剤。

その他の家屋用塗料

酸化鉛(II)、珪酸鉛(白色トップコート)、オルト鉛酸鉛(鉛丹下塗り剤)、クロム酸鉛(黄、緑、赤、オレンジ系の顔料)、鉛塩(塗料乾燥用)、鉛酸カルシウム(金属屋根用塗料)

*鉛丹(Red Lead:四酸化三鉛)

鉛の毒性は高いため、鉛に対する曝露はできる限り避けなければなりません。オーストラリア環境遺産省が公開した6つのステップガイドに示されている、家屋で使用される鉛を含む塗料を表1にまとめました。また、6つのステップガイドの概略を以下に示します[2]

 

ステップ1:始める前に

可能であれば、除去作業を計画している塗装中に含まれる鉛含有量を測定する。測定方法としては、次の3つの方法がある。

次の計画を立案する。

  1. カバーを行う、塗装を除去する、幅木などの塗装された材料を除去するなど、家屋で鉛含有塗装を処置するための方法に関する計画
  2. 家族が生活している家屋で、どのような道具を使用し、どのようにして正確に作業を行い、安全な作業を行うかに関する計画
  3. 鉛を含む塗装のカバー方法や除去方法に関する計画
  4. 毎日の作業後の清掃方法に関する計画
  5. 鉛を含む材料(破材などの廃棄物)の廃棄方法に関する計画

 

ステップ2:安全確保のための作業計画

家族、隣人、ペットを保護するために

 

作業者自身を守るために

 

ステップ3:適切な設定

  1. 屋外作業
  1. 屋内作業

 

ステップ4:鉛を含む塗装の除去や被覆

塵や埃の発生が最小限になる方法を使うこと。例え鉛含有量が1%未満の塗装であっても、塵や埃の発生を避けること。以下の中から、状況に応じて可能な限り最も安全な方法を選択すること。

  1. 有資格者や経験者を雇う
  2. 鉛を含む塗装をカバーする
  3. 塗装された材料(例えば幅木)を可能な限り除去及び廃棄する
  4. ウエット(湿った)状態で削り取る
  5. ウエット(湿った)状態で研磨する
  6. 化学薬品を用いて除去する
  7. HEPA(High Efficiency Particulate Air:ヘパフィルターとも呼ばれる超高性能フィルター)フィルターを装着した電気掃除機を使用する
  8. 低温ヒートプロセスを行う

鉛を含む塗装が良い状態にあり、剥がれ落ちたり白い粉を吹き出したりしていないのであれば、塗料を上塗りすることが可能。

 

ステップ5:清掃

最善を尽くして作業を行っても、特に屋内作業では、少なからず塵や埃が発生するのは避けられない。次に示すように、作業場は少なくとも毎日清掃すべきである。

  1. 保護衣をそのまま残す。
  2. スプレー容器を使ってプラスチックシート上にある全ての塵や破片を水で濡らす。
  3. 大きな廃棄物をプラスチックスシート上に置き、小さな破片は丈夫なプラスチック製の袋に入れて封をする。
  4. HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターを装着した電気掃除機で全ての表面を清掃する。この作業は作業後毎日行うべきで、必要であれば、液状廃棄物を処理するために、液体用電気掃除機を使う。
  5. 電気掃除機が正常に動作しない場合は、水に濡らしたモップを使って清掃する。
  6. 塵が飛散するのでほうきを使わないこと。鉛を含む塵が飛散するのでHEPAフィルターを装着していない電気掃除機を使用しないこと。
  7. アルカリ石鹸やTSP(Tri-Sodium-Phoshate:リン酸三ナトリウム)溶液を用いて作業場の全ての表面を洗うこと。また、モップや雑巾は、破片が飛散しないように水ですすいで洗うこと。
  8. 排水溝や庭に鉛を含む水が流れ込まないようにすること。
  9. 表面が乾燥したら、特に、幅木・周り縁・窓敷居・枠・棚・流し台の表面に注意しながら、塵や埃がなくなるまで2回目の電気掃除機をかけること。
  10. ほこりっぽい庭に水をまき、破片を集めて掃き掃除すること。そして集めた破片は丈夫なプラスチック製の袋に入れて封をすること。
  11. 作業時に着ていた衣類は、アルカリ石鹸やTSP溶液に浸けて清掃すること。
  12. 地域や州政府の廃棄ルールに従って、作業場にある全ての材料をプラスチック製の袋に入れて処分すること。 

必要であれば、清掃後の気中鉛濃度が基準値以内であるかどうか測定すること。

 

ステップ6:鉛汚染廃棄物の廃棄

鉛を含む廃棄物は有害廃棄物に分類されるので、地域や州政府の廃棄ルールに従って適切に処分すること。 

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Kenichi Azuma,「アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間Part4, CSN #162, November 20, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Nov2000/001120.htm

[2] Department of the Environment and Heritage, “The Six Step Guide to Painting Your Home. Second Edition”, ISBN 0 642 54627 4, 1999
http://www.environment.gov.au/epg/lead/leadpaint.html


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