アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間(Part4)


20001120

CSN #162 

アメリカでは健康的な室内空気質(IQA)に関わるプロジェクトとして、アメリカ環境保護庁(USEPA)室内環境部門、アメリカ肺協会(ALA)、アメリカ農務省(USDA)の支援のもとに、「The Healthy Indoor Air for America's Homes project」が19948月に発足しました[1]。このプロジェクトは、アメリカ国民が家庭内の室内空気質(IQA)問題に関する基本的知識を身に付け、理解を深めるための情報提供を目的として発足した中間的政府機関です。このプロジェクトは、ラドン、間接喫煙、喘息、鉛、燃焼ガス、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、カビ、ダニ、細菌、アスベストなどの室内空気質(IAQ)に影響する問題を取り上げています。 

このプロジェクトが200010月を「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month:アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間」と定め、各週ごとにテーマを設定してキャンペーンを展開しました[2]。前報では第3週のテーマである「ラドン対策週間」の概要について紹介しました。本報では第4週のテーマである「室内空気質全般の意識週間」の概要について紹介します。 

表1「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month」の各週テーマ

日程

テーマ

101-7

間接喫煙と子供の健康対策週間

108-14

子供と喘息対策週間

1015-21

ラドン対策週間

1022-28

室内空気質全般の意識週間

室内空気質に影響を与える因子としては、表2に示す因子があります[3]。そしてアメリカの健康的な室内空気質(IQA)に関わるプロジェクトでは、湿気と生物(カビ、白カビ、ダニ)、一酸化炭素などの燃焼物、ホルムアルデヒド、ラドン、揮発性有機化合物(VOCs)、アスベスト、微粒子、鉛、間接喫煙などを汚染要因の上位として取り上げています[4] 

これまで第1週において間接喫煙、第3週においてラドンを取り上げてきました。第4週「室内空気質全般の意識週間」では主にカビや白カビ、鉛、一酸化炭素を取り上げています。 

表2 室内空気質に影響を与える環境因子と汚染要因([3]をもとに作成)

環境因子

汚染要因

化学的因子

二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、二硫化硫黄、オゾン、塩素、鉱物繊維、鉛粉塵、粒子状物質(ばい煙、たばこの煙)、揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、有機溶剤、殺虫剤など)

生物的因子

細菌(カビ、ウィルス、菌類、バクテリア)、原生動物(寄生虫)、植物花粉、ダニ、虫、ラットやマウス、ペット(皮膚片、毛)

物理的因子

高熱、ストレス、湿度(粘膜乾燥)、光、音(騒音)、電磁波、電離放射線(ラドン)

 

1.カビ

最初にカビや白カビについて概説しています。特に秋の落ち葉にはカビや白カビが付着し、これらのカビはアレルゲンとなるため、室内に入ってこないように、家やその周りから除去するよう推奨しています。特に湿度が高い日や風が強い日は注意が必要だと述べています。「室内空気質全般の意識週間」で述べられている対策方法を次に示します。 

次に、季節ものの衣類や寝具に付着するカビについて概説しています。長期間地下室やガレージなどに収納しておいた衣類や寝具などにはカビが付着している場合があるので、例えば次の対策を行うよう述べています

 

2.鉛

次に、鉛について概説しています。日本では室内空気の鉛汚染について、ほとんど取り上げられません。しかしアメリカでは、1950年代頃まで鉛を含む塗料が一般的に使用されており、1978年頃までそのような塗料が販売されていました。そのため、古い家の壁の塗料が剥がれ落ちることで発生した埃(ほこり)やダストによって、室内空気が鉛に汚染されることがあります。また、1960年代までは車の燃料として有鉛ガソリンが使用されており、交通量の多い道路周辺の土壌は、鉛に汚染されている可能性があります。そのため、そのような土壌から舞い上がった土埃(つちぼこり)が室内に侵入し、それに含まれている鉛によって、室内空気が汚染される可能性を懸念しています。 

鉛による曝露は、消化管、神経系、血液、腎臓、免疫系に影響を与え、気分や人格の変化、知能発育遅滞、学習問題、低知能指数(IQ)、活動亢進、行動問題、不可逆性の腎障害を与えることがあります。発達中の子供の方が影響を受けやすいこと、子供の方が大人よりも体重あたりの呼吸量が多いことなどから、特に子供に対する影響が心配されます。 

もし鉛が含まれる塗料を使用した古い家に住むことになったら、濡れた布やモップで埃やダストを除去し、カルシウムや鉄分を多く含む食事をとるように奨めています。また、古い家に住む幼い子供たちの血液中の鉛濃度を測定することが重要だと述べています。

 

3.一酸化炭素

次に、一酸化炭素について概説しています。一酸化炭素は無味・無臭・無色の気体で、炭素または炭素化合物が不完全燃焼した場合に発生します。湯沸かし器などの燃焼器具は、使用時にある程度の一酸化炭素を出しますが、室内空気を燃焼させて酸素が不足すると不完全燃焼を起こし、さらに多くの一酸化炭素が発生します[5] 

一酸化炭素への短期曝露では、息切れ、頭痛、疲労感、注意力散漫、めまい、吐き気、嘔吐、重症になると意識喪失、昏睡、死に至ることがあります。また、血中酸素含有量、中枢神経系、心血管系に影響を与えることがあります。特に妊娠中の女性への暴露は避けるべきだと言われています[5] 

一酸化炭素は、無色・無味、無臭の気体で皮膚への刺激性がないため、吸っていることに気付かず中毒症状が現れるまで五感で感知できません。そのため燃焼器具を使用する時は、換気に十分注意する必要があります。 

4週「室内空気質全般の意識週間」では、一酸化炭素などの燃焼物に関連した第4週のカレンダーとして、この期間中の行動を例示しています。表3に要約します。 

表3 第4週のカレンダーの要約[2]をもとに作成)

曜日

行動の要約

月曜日

暖房装置やボイラーを持っていて、昨年の使用季節終了時に修理点検を行っていないのであれば、今日すぐに修理点検依頼をすること。排気管や煙突に問題がないかどうか確認すること。

火曜日

辞書や百科事典やインターネットで「一酸化炭素」を探すこと。そして一酸化炭素の危険性と家族をどのようにして守るかを学ぶこと。

水曜日

室内暖房器具の安全機能(不完全燃焼防止)を点検すること。燃料燃焼型の室内暖房器具からの排出物は、一酸化炭素が主な有害物質。異常な動作をするのであれば、修理点検を行うこと。

木曜日

家族会議を行い、一酸化炭素の排出源、有害性、毒性、防護方法について話し合うこと。一酸化炭素が引き起こす症状と、問題が生じたときにどうすべきか話し合うこと。

金曜日

ガス検知器の動作試験を行うこと。必要であれば電池を交換すること。

土曜日

堀込み式の車庫などでは、絶対に車のエンジンを掛けっぱなしにしないこと。車の排気ガスには一酸化炭素が含まれ、場合によっては家の中に一酸化炭素が侵入する可能性がある。

これから石油ストーブ、ガスストーブなどの燃焼式暖房器具を使用する季節に入ります。器具の点検、換気に注意するよう心掛けなければなりません。 

フロリダ農業消費者サービス省(Department of Agriculture and Consumer Services: DOACS)が、19991116日付けDOACSプレスリリースの中で、冬場に家庭用暖房器具を使用する時の安全上の注意事項について勧告しています。本サイトでも紹介していますので、改めて確認して下さい(参考文献[5]へアクセスして下さい) 

Author:東 賢一

<参考資料>

[1] Healthy Indoor Air for America's Homes
http://www.montana.edu/wwwcxair
 

[2] National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month
http://www.montana.edu/wwwcxair/oct_month.htm
 

[3] 東 敏昭, 建材試験情報, Vol. 33, No. 3, 911-15, 1997, “室内環境汚染物質について
(表の引用:Crowether, D.; Buildings and Health, Ph. D. Thesis, University of Cambridge, UK, 1994 

[4] Kenichi Azuma, アメリカにおけるIAQ(室内空気質)問題, CSN #122, February 14, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Feb2000/000214.htm
 

[5] Kenichi Azuma, 家庭用暖房器具を使用する時の安全上の注意事項, CSN #112, December 4, 1999
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Dec1999/991204.html


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ