家庭用暖房器具を使用する時の安全上の注意事項


1999年12月4日

CSN #112

冬の季節を迎え、暖房器具の使用が始まります。壁材、床材、家具など内装や家財などから放散される化学物質による室内空気汚染は、一般に気温が高い夏場に汚染が大きくなります。例えば、室内におけるホルムアルデヒドや総揮発性有機化合物(TVOC)の濃度は、冬場よりも夏場の方が高いという報告が多くなされています。しかしながら、換気が不十分で気密性が高い室内環境下で冬場に暖房器具を使用した場合、その状況が逆転することがあります。そのため暖房器具使用時は、換気に十分気を付ける必要があります 

暖房器具による室内空気汚染に関しては、室温が高くなることが原因で、床材や壁材などの建材から化学物質の放散量が高くなるために発生する汚染以外に、日常最も注意しなければならないことがあります。それは、気密性が高く換気が不十分な室内環境下で燃料を燃やして暖房するタイプの石油ファンヒーター、石油ストーブ、ガスストーブなどの暖房器具を使用した場合に発生する、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの放散化学物質です。そして、その中で特に注意しなければならないのは、一酸化炭素です。 

室内で石油ファンヒーターを使用した時に、一酸化炭素中毒になった事例がこれまで報告されています[1]。また、野外キャンプなどでテントや車の中で暖をとるために木炭や練炭を使い、一酸化炭素中毒になる事例も報告されています[1][2] 

一酸化炭素は無味・無臭・無色の気体で、炭素または炭素化合物が不完全燃焼した場合に発生します。湯沸かし器などの燃焼器具は、使用時にある程度の一酸化炭素を発生しますが、さらに燃焼系暖房器具などを使用することで室内空気を燃焼させて酸素が不足すると、燃焼器具が不完全燃焼を起こし、さらに多くの一酸化炭素が発生します[1] 

一酸化炭素への短期曝露では、息切れ、頭痛、疲労感、注意力散漫、めまい、吐き気、嘔吐、重症になると意識喪失、昏睡、死に至ることがあります[1]。また、血中酸素含有量、中枢神経系、心血管系に影響を与えることがあります。特に妊娠中の女性への曝露は避けるべきだと言われています[3] 

長期に曝露すると、記憶減退、失見当識、幻覚、運動失調、心臓障害のリスクが増大する可能性があります。その他、神経系障害、低出生時体重、死産増加、および先天性心疾患などの生殖障害を生じる可能性があります[1][2] 

一酸化炭素は、無色・無味、無臭の気体で皮膚への刺激性がないため、吸っていることに気付かず中毒症状が現れるまで五感で感知できません。そのため燃焼器具を使用する時は、換気に十分注意する必要があります。 

フロリダ農業消費者サービス省(Department of Agriculture and Consumer Services: DOACS)が、19991116日付けDOACSプレスリリースの中で、冬場に家庭用暖房器具を使用する時の安全上の注意事項について勧告しています[4] 

簡単な安全予防策で、多くの中毒事故が防げます。特にプロパンガスや都市ガスなどのガスを使用する暖房器具について勧告しています。またこの勧告は、灯油などの石油系燃料を燃焼する石油ファンヒーターなどの暖房器具にも当てはまります。勧告内容について、表1に示します[4] 

1 家庭用暖房器具を使用する時の安全上の注意事項[4]をもとに加筆作成)

No.

概要

1

換気が十分行われていることを確認して下さい。 

石油ファンヒーター、石油ストーブ、ガスストーブなどの燃焼器具を使用する時は、換気に注意しなければなりません。燃焼器具は、不完全燃焼を起こすと一酸化炭素を発生します。酸素不足センサーが付属していない、ガスストーブなどの室内暖房具を気密性が高い室内で使用する時は、窓やドアを開けて下さい。 

2

運転ランプが運転中に正しく動作していることを確認して下さい。 

暖房器具に付いている運転ランプが故障していたり、動作の調子が良くない時は、修理点検をする必要があります。そのまま無理に使用したり、自分で修理しようとせずに、ライセンスを持っている専門業者に修理点検を依頼して下さい。 

3

修理点検が必要な時は、専門の修理業者に依頼して下さい。 

修理点検は、ライセンスを持っている専門業者に依頼して下さい。決してライセンスを持っていない便利屋に依頼しないで下さい。(日本では、石油機器技術管理士・点検整備士) 

上記3つの勧告に加え、家庭用暖房器具の安全性チェックについて、以下の確認を行うよう勧告しています[4] 

2 家庭用暖房器具の安全性チェックポイント[4]をもとに加筆作成)

No.

概要

1

貼付されている表示をよく読んで使用上の注意事項を守り、取扱説明書に従って使用して下さい。

2

暖房器具の周囲に適度な空間を確保して下さい。

3

強いガスの臭いを感じた時は、運転を停止して下さい。コンセントや電灯などの電気スイッチをONにしないで下さい。着火して爆発する危険性があります。別の場所からガス会社に電話して下さい。

4

酸素欠乏センサーが付いていない開放型の室内暖房器具(ストーブなど)を使用する時は、窓やドアを少しだけ開けて下さい。

5

年1回は専門業者に依頼し、家庭用暖房システムを詳しく点検して下さい。

6

煙が発生したり、目の痛み、めまい、吐き気を感じた時は、暖房器具を停止して下さい。

7

ガスストーブの場合に、正常運転時のような青色の炎でなく、炎がちらちらしたり、黄色の炎になっていた時は、暖房器具を停止して下さい。

8

石油ストーブの放熱器(赤くなり熱を発する半球上の金属格子部)が壊れていたり、所定の位置からずれている場合、石油ストーブを使用しないで下さい。

9

例えば大型のガスストーブに付いているような外部への排気ダクトが壊れている場合は、排気式暖房器具を使用しないで下さい。また、排気ダクトの排気口に障害物がないかどうか確かめて下さい。障害物がある場合は、排除してから使用して下さい。

10

使用中の暖房器具の近くで、ガソリン、染み抜き剤、塗料の薄め液などの燃えやすい液体を絶対に放置したり使用しないで下さい。

11

取扱説明書がなく、運転状態が確認できないのでれば、暖房器具を使用しないで下さい。

12

野外バーベキューやキャンプ用の燃焼器具を、室内の暖房目的で使用しないで下さい。密閉された空間内でこれらの器具を使用すると、ヒトに影響を与えるレベルの一酸化炭素を発生する危険性があります。

燃焼を伴う暖房器具を使用する場合、表1や表2に示す注意事項や安全確認が必要です。特に五感で検知できない一酸化炭素による中毒を防ぐためです。また、二酸化炭素や窒素酸化物も発生しますので、室内の酸素濃度が低くならないよう十分な換気を行うことは大切なことです。どのような暖房器具が一酸化炭素を発生しやすいのでしょう。機種による違いや年式による違いがありますので簡単には比較できませんが、例えば図1に示す報告があります[5]  

LNG(プロパンガス)

 

3 一酸化炭素の濃度と人体への影響[6]

一酸化炭素含有率

人体の状況

0.01%

数時間の呼吸後でも目立った作用はない

0.02%

1.5時間後には軽度の頭痛を起こす

0.04- 0.05%

1時間後に頭痛、吐き気、耳鳴りを起こす

0.08- 0.10%

1- 1.5時間後に意識を失う

0.15- 0.20%

0.5- 1時間で頭痛、吐き気が激しくなり意識を失う

0.04%以上

短時間でも吸引すれば生命が危険になる

*たとえ0.01%であっても、幼児などの場合では、数時間でけいれんを起こすことがあります。 

一酸化炭素濃度と人体への影響は、表3のように考えられています。図1の中で最も一酸化炭素発生量が多い反射式石油ストーブをベースに、6畳の大きさの部屋において完全無換気状態で内装材による吸脱着がないと仮定して試算すると、わずか約2.4時間で0.02%の一酸化炭素濃度に達します。また、数百ml/時間程度の一酸化炭素発生量の暖房器具でも、器具の故障や酸素不足による不完全燃焼の増加などの要因が重なって一酸化炭素発生量が増加すると、同程度の時間で人体への影響が起こる可能性があります。 

最近市販されている石油ファンヒーターやガスストーブなどの燃焼器具は、不完全燃焼防止装置が設置されています。しかしながら、機械に頼って安全を過信することは危険です。燃焼を伴う暖房器具を使用する時は、十分な換気と器具の点検整備を行うことが大切です。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1]「化学物質による健康被害事例」国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/incident/jirei.html
「化学物質による被害事例」の中の一酸化炭素に入る
 

[2] 東 賢一, 「アウトドアキャンプでの一酸化炭素中毒」CSN #091, Aug 24. 1999
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Aug1999/990824.html
 

[3] 国際化学物質安全性カード (ICSC)、国立医薬品食品衛生研究所、化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/ICSC/
50音別リストから一酸化炭素を選択して下さい。)
 

[4] Vicki O'Neil, Department Press Release, Department of Agriculture and Consumer Services (DOACS), Nov. 16 1999
http://doacs.state.fl.us/press/111699.html
"Crawford Urges Consumer Safety During The Home Heating Season"
 

[5] 入江建久, 空気清浄, Vol. 34, No. 5, 1997
IAQ専門委員会報告」
 

[6] 炭鉱保安係員実務教本


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