アメリカ環境保護庁による鉛の有害性基準
2001年8月13日
CSN #199
アメリカでは1950年代頃まで鉛を含む塗料が一般的に使用されており、1978年頃まで鉛を含む塗料が販売されていました。そのため、古い家屋の壁の塗装が剥がれ落ちることで発生した塵(ちり)や埃(ほこり)によって、室内空気が鉛で汚染されることが懸念されています[1]。
そこでアメリカでは、1992年の住宅用鉛含有塗料有害削減法(Residential Lead Based Paint Hazard Reduction Act)によって改正された、毒性物質規制法(Toxic Substances Control Act: TSCA)の430項(section 430)によって、1978年以前に塗装されたほとんどの家屋や子供用施設に対して有害性基準を設けるよう1998年に勧告しており、2001年1月6日にその最終規定「鉛の危険レベルの確認:Identification of Dangerous Levels of Lead」を公表しました[2]。そして2001年4月には、一般向けのファクトシート「住居における鉛の有害性確認:Identifying Lead Hazards in Residential Properties」を発表しました[3]。
鉛を含む塗装は、塗装が劣化していない良い状態であれば、また塗装表面が摩擦や衝撃を受けなければ、有害とはなりません。アメリカ環境保護庁が、一般向けファクトシート「住居における鉛の有害性確認」の中で、鉛を含む塗装がなぜ有害になる場合があるかについて、次にように示しています。
鉛を含む塗装の有害性基準
1)鉛を含む塗装の劣化
塗装が崩れたときに塗装の破片や鉛のダストが排出され、家屋を汚染する。そしてそれは、幼い子供たちが日常の活動の中で、手を口に運ぶことによって容易に取り込まれる。このような劣化した鉛を含む塗装は、家屋や子供用施設の室内にも存在する可能性がある。
2)鉛を含む塗装は、摩擦や衝撃を受ける表面の塗装にも使用される
ドアフレームや階段など、塗装表面が摩擦や衝撃を受けると、塗装を破損して鉛を放出する。また、窓、階段、床など摩擦を受ける表面の塗装は、通常の使用状態でも塗装が破損し、鉛を放出する。
3)鉛を含む塗装は歯痕が示すように子供が近づきやすいところの表面にある
窓の敷居やレール、階段の隅など、子供の高さの位置に鉛を含む塗装表面があること、また、子供が噛んだりなめたりする可能性があることに気付くこと。
鉛の有害性に関する最終規定では、鉛の含有状態と存在場所に応じて基準値を設定しています。表1にその概要を示します。
表1 アメリカ環境保護庁による鉛の有害性基準([3]をもとに作成)
鉛の含有状態 |
存在場所 |
基準値 |
ダスト |
床、カーペット |
40μg/ft2 |
窓の敷居 |
250μg/ft2 |
|
土壌 |
住居の遊び場 |
400ppm |
庭の余り場 |
平均1,200ppm |
|
鉛の除去要件 |
床、カーペット |
40μg/ft2 |
屋内の窓の敷居 |
250μg/ft2 |
|
窓の溝 |
400μg/ft2 |
アメリカ環境保護庁は、20年以上前から鉛に対する曝露削減に取り組んできました。特に幼い子供たちは、神経システムが発達途上にあるため、鉛の毒性の影響を受けやすく、鉛に関連した健康影響の多くは、取り戻すことができないと考えられています。そのためこのファクトシートでは、これらの有害性基準値を超える塗料やダストや土壌中の鉛に、子供たちが曝露しないよう努めるべきだと述べています。この最終規定は、2001年3月6日に発効しました。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] Kenichi Azuma,「アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間Part4」, CSN #162, November 20, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Nov2000/001120.htm
[2] United States Environmental Protection Agency (USEPA), “Lead; Identification of Dangerous Levels of Lead; Final Rule”,Vol. 66, No. 4, January 5, 2001
[3] United States
Environmental Protection Agency (USEPA), “Identifying
Lead Hazards in Residential Properties”,
EPA 747-F-01-002, April 2001
http://www.epa.gov/lead/