廃棄物処分場周辺地域の健康影響調査
−イギリス保健省−
2001年2月12日
CSN #173
イギリス保健省(Department of Health: DH)では、廃棄物処分場に関わる健康影響調査を行っています。廃棄物処分場には、重金属などのさまざまな有害化学物質が含まれています。そのため、その管理が十分に行われていないと、含有する有害化学物質が周辺地域に漏出し、健康影響を引き起こす可能性が懸念されます。
廃棄物処分場周辺に住む人たちの健康リスクについて、欧米でこれまで発表された50の研究論文を解析した結果、健康影響リスクの増加がいくつかの廃棄物処分場付近で報告されており、これらの要因について、心理的傾向や社会的な混乱要因による影響を考慮しないわけにはいかないが、ある廃棄物処分場付近に住む人たちにおいて、真の健康リスクを示している可能性があると報告されています[1]。この解析は、アメリカ政府が発行する環境科学誌「環境衛生展望:Environmental Health Perspectives」2000年3月号の中で、英ロンドン衛生熱帯医学校 公衆衛生政策部 環境疫学科のMartine Vrijheid氏が発表した総説で発表されており、次の研究の必要性を勧告しています。
今後特に必要な研究([1]より作成)
これまで体系的に廃棄物処分場周辺地域の健康調査が行われたことはなく、その因果関係も十分に解明されておりませんでした。しかしながら、廃棄物処分場周辺地域に住む人たちは、悪臭や浸出水に対する不安と、それらによる健康影響への不安があると思われます。そのような状況の中、イギリス保健省は表1のプログラムを進めています。
表1 イギリス保健省の研究プログラム[2]
No. |
研究プログラム |
報告時期 |
1 |
廃棄物処分場から排出される化学物質による奇形発生の可能性調査 |
2001年春 |
2 |
先天性異常の原因調査 |
2001年夏 |
3 |
先天性異常及び特異的な奇形の発生率と地理的変化に係る研究 |
2002年夏 |
4 |
廃棄物処分場からの距離と健康影響に係る調査 |
2年以内 |
廃棄物処分場から排出される有害化学物質が周辺住民の健康に与える影響を評価するには、たくさんの課題があります。例えばほとんどの研究において、化学物質への人の曝露量が測定されていないこと、廃棄物処分場付近に住んでいる人たちのストレス、不安感、先入観、喫煙など社会的要因による影響が考慮されていないことが課題とされています。また、複数の化学物質の混合物や、低レベルの化学物質に長期間曝露した時の人への健康影響について、ほとんどわかっていないことも大きな課題としてあげられます。
イギリス保健省のプロジェクトは、今後2年以内に順次報告を行う予定となっています。少しでも実態が明らかとなることが期待されます。また日本でも、同様の調査研究が行われることが望まれます。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] Martine
Vrijheid, Environmental Health Perspectives,
Volume 108, Supplement 1,
pp101-112, March 2000
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2000/suppl-1/toc.html
“Health Effects of Residence Near Hazardous
Waste Landfill Sites”
(解説)
Kenichi Azuma, 廃棄物処分場周辺に住む人たちの健康リスク, CSN #131, April 17, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/April2000/000417.htm
[2] Department of
Health, Health Effects in relation to Landfill sites
- Update on research, September 2000
http://www.doh.gov.uk/landup.htm