EU(欧州連合)によるダイオキシン曝露報告書


2000年1月31日

CSN #120  

ダイオキシン類は、よく似た物理化学的性質をもつが、異なる毒性を有する219種類の同族体からなる化学物質の総称です。その中でも2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)は非常に毒性が強く、生殖系、免疫系、内分泌系などに対し、様々な影響を与えることが報告されています。また、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類において、2,3,7,8-TCDDは、ベンゼン、ヒ素、アスベストなどと同じ、最上位のグループ1(ヒトに対して発癌性を示す)に分類されています[1] 

一般にダイオキシン類の毒性は、2,3,7,8-TCDD以外のダイオキシン類の毒性も含めて表現されます。対象とする全てのダイオキシン類の毒性を2,3,7,8-TCDDに換算した量を、毒性等量(TEQ)といいます。例えば1gTEQは、2,3,7,8-TCDDの毒性に換算したダイオキシン類1gの量を表します。つまり毒性に関しては、最も毒性が強い2,3,7,8-TCDD1gあるということと同じです。 

19985月に世界保健機関(WHO)は、ポリ塩化ビフェニール(PCB)に含まれるコプラナーPCB(Co-PCB)もダイオキシン類と同様の毒性を示すため、ダイオキシン類に含めるよう提案しました。現在では日本を含め、多くの国々がダイオキシン類にCo-PCBを含めるようになっています。 

199910月に欧州連合(EU)が、「EUダイオキシン曝露と健康データに関する編集書」というタイトルの報告書を発表しました[2]。約600ページにもなる膨大な量の報告書には、大気や土壌などの環境中におけるダイオキシン類汚染レベル、食事や土壌や大気などからヒトが摂取するダイオキシン類曝露量、母乳や体組織中に蓄積しているダイオキシン類汚染量に関するEU加盟各国の状況、環境やヒトへの毒性などについて報告されています。 

1に示すように、私たちは日常生活において、およそ95%以上食事を通じてダイオキシン類を摂取しています([3]をもとに作成)。今回の報告(CSN #120)では、EUダイオキシン類報告書の中から食事に関する調査データを取り上げ、日本と比較しながら食事からのダイオキシン類摂取について報告いたします。 

 

最初にEU各国及び日本における食事からのダイオキシン類摂取量を図2に示します([2][3][4]をもとに作成)。WHOの耐容1日摂取量(TDI)における、最大耐容摂取量は4pgTEQ/kg体重/日、究極目標は1pgTEQ/kg体重/日です。図2から明らかなように、EU主要各国のほとんどのダイオキシン類摂取量が、WHOTDIの最大耐容摂取量と究極目標の間にあります。またそれは日本も同じであり、EU主要各国においても決して安全と言い切れる状況ではありません。

次に、各食品におけるダイオキシン類の濃度を図3、図4に示します([2][5]をもとに作成)。欧州、日本ともに魚介類と肉類におけるダイオキシン類の濃度が高く、魚や家畜類が汚染されていることがわかります。魚や家畜類の汚染は、大気、水、土壌などの環境中に拡散したダイオキシン類が、水や土壌中の微生物に取り込まれ、食物連鎖を通じて私たちが食べる魚や家畜類に蓄積されるためだと考えられています。そのため環境汚染度合いによる地域差を生じ、日本では1日のダイオキシン類摂取量は中国地方や北海道で低く、関西や関東地方で高いと報告されています[5]

      測定条件が異なること、図3は脂肪中の濃度であることなどから、図3と図4の数値を単純には比較できません。 

また図3、図4を総じて見た場合、日本は欧州に比べ、果物や野菜におけるダイオキシン類の濃度が高いと推定されます。例えば大根を例にとると、「根」の部分ではほとんどダイオキシン類が検出されないが、「葉」の部分では検出されること、また野菜の中では、ほうれんそう、はくさい、大根の葉、小松菜などにおいて比較的ダイオキシン濃度が高いことが、1999年に日本の環境総合研究所から報告されています。つまり傾向として、根野菜より葉野菜の方がダイオキシン類の含有量が多いと考えられています 

これは、植物が根を通じて土壌からダイオキシン類を取り込むことはほとんどなく、葉から呼吸する際に、炭酸同化作用により気孔を通じて植物組織の内部にダイオキシン類が取り込まれるためではないかと推定されています。 

5に示すように、19995月に発表された国連環境計画(UNEP)の報告によると、1995年前後において日本は環境中へのダイオキシン類排出量が世界1です[6]。またその主な汚染源は、廃棄物の焼却によるものです[7]

私たちのダイオキシン類摂取の約95%以上が食事由来によること、ダイオキシン類の汚染源の大半が廃棄物の焼却によるものだと考えると、私たちが排出する廃棄物がもととなりダイオキシン類が環境中に排出され、私たちが日常食べる食品に跳ね返っていると言えるのではないでしょうか。 

199910月にEUが発表したダイオキシン類の報告書では、まとめとして表1の勧告が行われています。 

1 Compilation of EU Dioxin Exposure and Health Dataにおける勧告内容[2]をもとに要約)

No.

要約

EU全体の共通した排出量規制を行うために、EU加盟国それぞれがさらに行動を起こすこと。具体的には、主に産業界を排出源とする大気中や水環境へのダイオキシン類排出制御を最適化するためのコスト/ベネフィット分析に着手すること。大気、土壌、水環境へのEU全体のダイオキシン排出源の目録を作成するために、EC DG XIの支持のもと、ノルトライン・ヴェストファーレン州にある国土省(LUA: Landesumweltamt)によって着手されるだろう。そして将来、年間総排出量 (g/年)に対する排出規制が検討されるべきである

大気、浮遊物、堆積物、人間の血液中(人間の母乳はすでにWHOがモニタリングしている)のダイオキシン類の濃度を含め、これから将来にわたって、どれほど人間がダイオキシン類(コプラナーPCBsを含む)へ曝露しているかをモニタリングするためのシステムを開発すること。そして、サンプリング・分析方法、・報告手順において標準化が必ず含まれること。

EU加盟国全域において、食品中におけるダイオキシン類の最大耐容濃度(MTCs)を確立すること。関係機関との協力において、汚染ルートの可能性に関する情報を提供するために、食習慣や収入の地域差に関する情報交換を行わなければならないだろう。

欧州北部とは異なる気候、農業上の習慣、食習慣であることを理解した上で、欧州南部のEU加盟国における、食事からのダイオキシン類への曝露ルートを確認すること。この情報は、欧州全域においてダイオキシン類への曝露を削減するために必要である。

特に食品中におけるダイオキシン類の濃度に関する情報などの、公衆衛生情報を提供する監視機関の設置をEC加盟国に奨励すること。これにより、ダイオキシン濃度が平均レベル以上の食品を消費する特定地域の人々に対し、リスク回避のために費用対効果が最もよい方法を提供すべきである。

短期ではあるが、高濃度のダイオキシン類へ曝露する母乳保育の乳幼児における、神経系、免疫系、生殖系、内分泌系、知能発達への影響をさらに明らかにすること。そして、母乳保育の乳幼児(第一児、それ以降も含めて)の体組織中におけるダイオキシン類の蓄積濃度に関する測定を行うこと。母乳保育は広範囲にわたる有益性が認められるが、このような情報は、不確実性を少なくするために必要である。そして近いうちに、ダイオキシン類への曝露を削減するために、私たちが何を選択すべきか考える上で、コスト/ベネフィット分析の実行を考慮しなければならない。

WHOTDI1-4 pg TEQ/kg/day (コプラナーPCBs含む)を採用するようEU加盟各国に促進すること。

 Author:東 賢一

<参考文献>

[1] IARC Monographs Volumes 1 to 42 Supplement 7, 国際癌研究機関(IARC)
http://193.51.164.11/htdocs/Indexes/Suppl7Index.html

[2] Report produced for European Commission DG Environment UK Department of the Environment Transport and the Regions (DETR), Compilation of EU Dioxin Exposure and Health Data, October 1999
http://europa.eu.int/comm/environment/dioxin/
"Dioxin exposure and health"

[3] 環境庁環境保健部環境安全課環境リスク評価室、ダイオキシン類1999(関係省庁共通パンフレット) 

[4] ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について、厚生省生活衛生局企画課、環境庁企画調整局環境安全課環境リスク評価室、June 21. 1999
http://www.mhw.go.jp/houdou/1106/h0621-3_13.html

[5] 厚生省生活衛生局 乳肉衛生課,食品保健課、平成9年度食品中のダイオキシン類等汚染実態調査報告について, October 28. 1998
http://www.mhw.go.jp/houdou/1010/h1028-3_13.html

[6] United Nations Environment Programm(UNEP), Dioxin and Fran Inventories, May 1999
http://irptc.unep.ch/pops/newlayout/prodocas.htm

[7] 東 賢一、「各国のダイオキシン類排出量の目録」CSN #109
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Nov1999/991116.html


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