英国でのダイオキシン汚染レベル
1999年7月6日
CSN #075
Dioxin-Lメーリングリストに参加している英国人の方からの情報で、英国のダイオキシン汚染状況についての報告があるので、それをもとに概要を紹介します。
ダイオキシン類とはポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PCDD、75種類)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF、135種類)を意味します。2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)は、その中でも最強の毒性を有するダイオキシンです。一般にダイオキシン類の毒性は、 PCDD及びPCDFに設定されているTEF(毒性等価係数)を用いて2,3,7,8-TCDDに換算します。そして換算された数値をTEQ(毒性等量)として表現します。また、1998年5月のWHO(世界保健機関)の専門家会合では、コプラナー−ポリ塩化ビフェニール(Co-PCB)もダイオキシン類に含めるとしています。以後この表現を用いますのでご注意願います。
英国COT(食品・消費者製品・環境中の毒性と化学品に関する委員会)では、その値を超えたときに、環境中のレベルを下げるための調査と方策を始めるという意味合いで、TDI(耐用一日摂取量:健康影響の観点から、人間が一生涯摂取しても影響が出ないと判断される、一日当たり、体重1kg当たりの摂取量。) ではなくガイドラインレベルという値を最初に設定しています。ガイドラインレベルとしては、1pg TEQ/kg 体重/ 日を採用していますが、これを TDI として採用すれば、リスクを過大評価することになると考えられています。そして、最終的には1991年に上記のガイドラインレベルを撤廃し、TDIとして以前にWHO(世界保健機関)が提案した 10 pg TEQ/kg 体重/ 日を採用しています。
英国の食品・消費者製品・環境中の毒性と化学品に関する委員会(COT)による報告書
年代 |
概要 |
ダイオキシンの分類 |
平均摂取量 |
1989年 |
産業国における 母乳保育乳児 |
2,3,7,8- TCDD |
10-20 |
上記以外のダイオキシン類 |
100 |
||
ダイオキシン類 *Co-PCBsは含まず |
110-120 |
||
1997年 |
英国における、 |
ダイオキシン類+Co-PCBs |
約170 |
英国における、母乳保育児のダイオキシン類(Co-PCBs含む)摂取量は、TDIの約17倍と高い値となっています。
英国における年齢別摂取量
年齢層 |
ダイオキシン類+Co-PCBs摂取量 |
TDI(耐用一日摂取量) |
10 |
1歳半までの母乳保育乳児 |
181.0 |
1歳半−2歳半の幼児 |
19.6 |
3歳半−4歳半の幼児 |
25.3 |
学童 |
13.7 |
成人 |
10.8 |
英国人は、年齢層別に見ても、TDIを越えた濃度でダイオキシン類を摂取している。
日本における摂取量
項目 |
ダイオキシン類摂取量 |
|
TDI(耐用一日摂取量) |
4 |
|
体重5000gの乳児が、1日あたり500gの母乳を摂取すると仮定した場合で母乳からのみを試算 |
55.0 |
|
一般的な生活環境 |
大都市地域 |
0.52 -3.53 |
中小都市地域 |
0.50 -3.50 |
|
バックグラウンド地域 |
0.29 -3.29 |
世界保健機構(WHO)のTDI:1-4 pg TEQ/kg 体重/ 日
英国人のダイオキシン類摂取量は、TDIを大きく越えています。特に母乳で保育されている乳児の摂取量はかなりの量になります。日本では、環境庁の試算によると、TDIを越えていないことになりますが、WHOのTDIで比較すると、グレーゾーンに入っていると言えます。また、母乳保育乳児については、約14倍に相当するダイオキシン類を摂取していることになります。
1999年6月に発表された、日本の環境庁と厚生省のTDI検討合同作業班の報告によると、乳児の摂取量に対して、「TDIは一生涯に連日して摂取した場合の指標であり、一時的に摂取量がTDI以内なら健康を損なうものではない。」と指摘しています。しかし、乳児の感受性は児童や成人よりも敏感です。その敏感な時期にTDIを大きく越えたダイオキシン類を摂取しても健康を損なうものではないとは言えない。私はそう思います。
上記の英国の状況も含め、先進工業国でのダイオキシン汚染は深刻です。最近UNEP(国連環境計画)が発表した1995年前後での各国のダイオキシン排出量は以下の通りです。
国 |
ダイオキシン排出量 |
日本 |
3,981 |
アメリカ合衆国 |
2,744 |
フランス |
873 |
ベルギー |
661 |
英国 |
569 |
オランダ |
486 |
ドイツ |
334 |
カナダ |
290 |
スイス |
181 |
オーストラリア |
150 |
ハンガリー |
112 |
スロベキア |
42 |
デンマーク |
39 |
オーストリア |
29 |
スェーデン |
22 |
また、1999年6月に環境庁が発表した1998年の国内排出量は2,900 g TEQです。つまり未だに世界で最も排出量が多い国です。早急な対策が望まれます。
母乳のダイオキシン汚染は深刻ですが、専門家は母乳を与え続ける様に求めています。なぜなら免疫や栄養面での利点、及び母子の絆などを考慮すると、母乳による授乳が最も良いからです。問題の本質は、ダイオキシンに汚染されている私たちの生活環境にあるということです。
<参考文献>
(出典1)
平成9年度厚生科学研究「母乳中のダイオキシン類に関する調査」中間報告
URL: http://www.mhw.go.jp/houdou/1004/h0407-1.html
平成9年度から平成10年度にかけて、埼玉県、東京都、石川県、大阪府におけるダイオキシン類(PCDD、PCDF)濃度を調査した中間報告によると、各地平均で6.6-20.9 pgTEQ/g 脂肪 (平均値 16.5 pgTEQ/g 脂肪)のダイオキシン類が検出されています。また、母乳100g当たり、29.6-74.3 pgTEQ (平均値 55.0 pgTEQ)のダイオキシン類が検出されています。
少なく見積もったケースとして、体重5000gの乳児が、1日あたり500gの母乳を摂取すると仮定し、平均値55.0 pgTEQを用いると、55.0 pgTEQ/kg体重/日となります。
(出典2)
環境庁によるダイオキシンリスク評価検討会の報告の概要(平成9年5月)
URL: http://www.eic.or.jp/eanet/dioxin/hr_r_idx.html
(参考)
各国の母乳中のダイオキシン濃度、我が国における一般的な生活環境からの推定曝露状況などについて、私がまとめたレポートがあるので参照下さい。
URL: http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/June1999/990605.html