Bt殺虫剤曝露とアレルギー性皮膚過敏症


1999年7月11日

CSN #076

Bt (バチルス・チューリンゲンシス:Bacillus thuringiensis)殺虫剤は、Bt菌という細菌が産生する結晶性タンパク毒素(σ-トキシン)を製剤化した微生物殺虫剤です。 

Bt菌は、土壌中に普通に生活している細菌で、自然界に広く分布しています。また同属の細菌としては納豆菌のバチルス ナットウがあります。Bt菌には様々な亜種があり、その多くは蛾や蝶に効果があるが、ハエや蚊のみに、あるいは甲虫にのみ効果のある種類もあります。現在日本では、Bt殺虫剤には蛾や蝶に効果の高いクルスターキ(kurstaki)とアイザワイ(aizawai)2つの亜種が使われています。また、Bt殺虫剤は標的害虫に対する特異性が高く、非標的生物や人間に対する影響が非常に少ない殺虫剤として、現在アブラナ科野菜の大害虫である、コナガの基幹防除薬剤として広く使用されています。但し、アブラムシには効かないとされています。 

昨今、遺伝子組み替え作物に関する安全性が疑問視されています。害虫耐性付与のため、遺伝子組み替えされたトウモロコシには、Bt菌の殺虫性遺伝子が組み込まれています。この遺伝子の働きで作物の全細胞中に殺虫毒素が生成され、葉や茎、実などを食べた蛾や蝶の幼虫は、口がしびれて摂食障害を起こし、さらに毒素が消化器官細胞を破壊し、消化液が全身に回って麻痺を起こして死んでしまいます。 

これまでBt遺伝子を導入した作物は、標的の害虫以外の生物への影響はほとんど無視できると考えられてきました。しかし19995月、科学雑誌としては世界的に最も権威のある、英科学雑誌「ネイチャー」:Nature Vol.399, p214 (1999) に発表された研究報告で、Bt遺伝子を組み込んだトウモロコシの花粉を食べた蝶の幼虫が次々と死ぬことがわかりました。つまり、Bt菌は人間や非標的生物には無害だとされてきましたが、そうでない可能性のあることが明らかになりました。(ここをクリックして概要をご参考下さい。) 

今回紹介する研究論文は、Bt殺虫剤を使用している農作業者が、散布時にBt殺虫剤に曝露することによって、免疫応答にどのような影響が発生するかについて報告しています。そしてこの論文では、Bt殺虫剤散布による曝露によって、アレルギー性皮膚過敏症に結びつく可能性があることを示しています。

 

<研究論文出典>

環境衛生展望

URL: http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/1999/107p575-582bernstein/abstract.html

Environmental Health Perspectives Volume 107, Number 7, July 1999

1)I.Leonard Bernstein, Jonathan A. Bernstein, Maureen Miller, Sylva Tierzieva, David I. Bernstein, Zana Lummus,
シンシナティ大学 医学部 内科部門 免疫学

2)MaryJane K. Selgrade
シンシナティ大学 医学部 内科部門 実験毒物学

3)Donald L. Doerfler
米環境保護庁 国立衛生環境影響研究室 生物統計学研究サポートスタッフ

4)Verner L. Seligy
カナダ保健省 健康保護支局 環境衛生センター 環境職業毒性部門

 

<概要>

これまでBt殺虫剤は、人間への健康影響がほとんどないとされてきました。しかし、アレルゲンとしての可能性については研究されていません。細菌やウィルスの侵入から体を守る働きを免疫と言います。アレルギーとは、生体を守るべきこの免疫反応によって、逆に障害を引き起こすことです。本研究では、Bt殺虫剤曝露前後の農作業者に対する健康調査と免疫反応への影響評価を行い、Bt菌がアレルギー疾患を引き起こすアレルゲンとなるかについて研究を行っています。 

アレルギー発生の4つのメカニズム

分類

反応

I型アレルギー(即時型)

IgE(免疫グロブリンE)が関与し、反応開始から15分から30分で反応が生じる(一般によく呼ばれるアレルギー反応)

II型アレルギー

IgG(免疫グロブリンG)、IgM(免疫グロブリンM)などの抗体の関与により、細胞を直接傷害する反応(貧血など)

III型アレルギー

抗原−抗体結合によりできた、免疫複合体の体内沈着によるアレルギー反応(血清病、自己免疫疾患など)

IV型アレルギー

抗原とそれを攻撃する免疫細胞との反応によるアレルギー反応(アレルギー性接触性皮膚炎など)

免疫グロブリン(Ig)は,抗原刺激を受けたB細胞系細胞が分化・成熟して産生する血漿蛋白成分で、Igの量的あるいは質的な異常をとらえることにより,免疫機構の全体的な機能異常を知る手がかりが得られます。そのため、各種疾患の診断,予後,重症度,経過観察などの検査目的で用いられています。本研究では、IgE IgGの2つの抗体を測定し、免疫反応性を評価しています。 

1、実験方法

Bt殺虫剤散布が必要な野菜を刈り入れる農作業者において、以下の曝露時期及び曝露状況で比較評価を行っています。

評価グループ

曝露時期及び曝露状況(nは検体数)

直接Bt散布の曝露を受けた

3グループ

最初の散布作業前(n = 48)

1ヶ月間散布曝露後(n = 32)

4ヶ月間散布曝露後(n = 20)

直接Bt散布の曝露を受けな

かった2グループ(対照群)

低曝露農作業者(n = 44)

中程度の曝露農作業者(n = 34)

(調査確認方法)

2,調査測定結果

1)皮膚試験とアレルギー反応

2)Ig免疫反応

3,結論

Bt殺虫剤散布曝露は、アレルギー性皮膚過敏症及びIgEIgG抗体の誘発を引き起こす可能性がある。

 


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