インド・デラドゥーン市の飲料水におけるラドン濃度


1999年7月23日

CSN #080

ラドン(ラジウム226の娘核種)は室内空気汚染源の1つに挙げられている化学物質で、自然界に存在する自然放射性核種のーつです。気体なので常に表面から大気中に放出されており、その濃度は屋外大気中で1立方メートル中に約5ベクレル(5Bq/m3)程度と言われています。土壌、岩石等の中で生成され、空気中に存在するので家屋の窓や扉を閉め切っておくと、ラドン濃度が高くなります。ラドンは、肺癌を引き起こす可能性が指摘されている化学物質です。世界保健機関 (WHO) 国際がん研究機関 (IARC)では、ラドン(222ラドン)が、「人に対して発がん性を示す:グループ1」に分類されています。 

最近の研究で、人間が自然の放射線から受ける放射線量の約半分が、ラドンによると試算されたため、ラドンに関する調査研究が盛んに行われています。特に最近の住宅は、石膏ボードやセメント等の土壌成分を含んだ材質が多く用いられており、これらの材質からラドンが発生し、換気せずにいるとラドン濃度が高くなると言われています。 

各国の屋内ラドン濃度、住居内ラドン濃度に関する規定などを、以下のサイトに掲載していますのでご参考下さい。

(出典)「ラドンによる室内空気汚染」:住まいにおける化学物質

URL: http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/May1999/990526.html

 

また、ラドンは水への溶解性が高く、地下水に溶けて容易に移動し、地上に出てきます。すなわち、地下水を汲み上げて飲料水として用いる場合は、飲料水中にラドンが含まれることがあります。 

今回紹介する論文には、インド・デラドゥーン市の飲料水中に含まれる、ラドン濃度を測定した結果が報告されています。 

<論文出典>

室内建物環境,Vol. 8, No. 1, p67-70.1999
http://www.online.karger.com/library/karger/renderer/dataset.exe?jcode=IBE&action=render&rendertype=abstract&uid=IBE.ibe08067

Indoor+Built Environment 8:1:1999, 67-70.

R.C. Ramola(a), V.M. Choubey(b), N.K. Saini(b), S.K. Bartary(a)(b)

(a)ガルワール大学、物理学部

Department of Physics, H.N.B. Garhwal University Campus, Tehri Garhwal

(b)ヒマラヤ地質学ワディア研究所

Wadia Institute of Himalayan Geology, Dehradun, India

 

<概要>

インド・デラドゥーン市の飲料水中のラドン(222Rn)濃度を測定するために、デラドゥーン市の一般の水源である、管井戸や手動ポンプ井戸から汲み上げた水に含まれるラドン濃度を測定しています。

測定地点

平均ラドン濃度(Bq/l

手動ポンプ井戸の水 (19地点)

67(最小27 - 最大154

管井戸の水 (49地点)

59(最小26 - 最大129

管井戸:管を地中に埋め込んで吸い上げる井戸

手動ポンプ井戸:手動で汲み取る井戸

 

この結果を国際勧告基準と比較すると、国際平均濃度以上ではあるが、ヒトへの曝露に関する国際勧告基準値の最高値である400 Bq/lよりは低い。一般に、デラドゥーン市での飲料水は、今回測定を行った地点と同レベルの濃度のラドンによって汚染されていると報告しています。

 

<追補>

水中のラドン濃度を考えるにあたって、ラドン温泉を思い浮かべる方も多いと思います。温泉とは、1948年にできた温泉法により、温泉法で規定された成分がどれか1つでも規定量以上含まれていれば、温泉であると定義されています。その成分は、遊離二酸化炭素、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、総鉄イオン、マンガンイオン、水素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、ヒ酸水素イオン、メタ亜ヒ酸水素イオン、総硫黄、メタホウ酸、メタ珪酸、炭酸水素ナトリウム、ラドン、ラジウム塩です。 

ラドンの場合は、以下のようになります。(摂氏25度以上)

分類

キューリー単位

ベクレル単位

鉱泉

100億分の20キューリー単位以上/泉源1kg

74 Bq/l 以上

療養泉

100億分の30キューリー単位以上/泉源1kg

111 Bq/l 以上

*1Ci(キュリー)3.7×10,000,000,000 Bq 

インド・デラドゥーン市の飲料水中のラドン(222Rn)濃度は、日本の温泉法から考えると、温泉と定義できるラドン濃度を有する地点があるということになります。日本では、ほとんど飲料水のラドン濃度が測定された報告がありません。全国的な飲料水のラドン濃度調査が必要と思われます。 

また、日本では室内空気中のラドン濃度も、飲料水中のラドン濃度も基準が定められていません。米国では、環境保護庁が飲料水中の最大汚染濃度(MCL)300pCi/l11.1 Bq/l)に定めるよう提案しています[1]日本でも基準を明確にし、基準を越える室内空気及び水環境に対する対策が必要と思われます。 

(参考資料)

[1]Drinking Water Priority Rulemaking: Radon」米環境保護庁
http://www.epa.gov/ogwdw000/standard/pp/radonpp.html


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ