最近のプラスチック・ケミカルリサイクル技術


1999年11月22日

CSN #110

私たちの産業社会は、産業革命後の高度な産業の発展において、様々な有益な技術と商品を世に送り出してきました。そして、大量生産/大量消費の社会を築き上げ、経済が発展してきました。しかしその一方、送り出した製品が不要になったときに廃棄される廃棄物が増加し、深刻な廃棄物処理問題を引き起こしました。そのため近年、持続可能な社会と発達をめざし、循環型経済社会構築のための様々な取り組みがなされています。近代技術の1つであるプラスチック工業においては特に深刻な問題であり、廃棄物として焼却されるプラスチックから発生する有害化学物質、最終処分場から浸み出す浸出水中に含まれる有害化学物質など数多くの問題を抱えています。 

循環型経済社会構築のため、プラスチック工業界では製品のリサイクル技術の開発を行ってきました。これまでのプラスチック・リサイクルの歴史的概要を表1に示します[1] 

表1 日本のプラスチック・リサイクルの歴史的概要[1]をもとに加筆作成)

年代

環境・廃棄物・リサイクル問題の推移

1960年代後半

水俣病、イタイイタイ病、四日市喘息などの公害が社会問題となる。

1970

「廃棄物及び清掃に関する法律(廃掃法)」制定

一般廃棄物(都市どみ)と産業廃棄物の明確化

1971

東京都「ごみ戦争」宣言、プラスチック処理促進協会発足、廃プラスチック処理のため、リサイクル技術の開発が激化

1973

PCBによるカネミ油症事件が引き金となり、「化学物質の審査および製造規制に関する法律:化審法」が施行

1976年−1979

工業技術院の都市ごみ資源再利用システム、横浜市の都市ごみ資源化プラントなど省資源、省エネルギー技術が主要課題となる。

1980

旧西ドイツで「緑の党」が誕生、欧米において、環境・廃棄物問題がクローズアップ

1980年代後半

フロンによるオゾン層破壊、炭酸ガスによる地球温暖化など地球規模の環境問題が世界中に広がる。

1990年代初頭

欧米において廃棄物リサイクル問題がクローズアップ、日本でもプラスチック・リサイクル問題が再浮上。

1991

「再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)」制定

1992

第1回地球サミット(ブラジル)

1995

「容器包装リサイクル法」制定

1996

ドイツ: 「循環経済を促進し環境と調和する廃棄物処理を確保するための法律(循環経済・廃棄物法)」施行  

1997

紙、缶、PETボトルに対し、リサイクル法実施

2000

全容器包装廃プラスチックに対し、リサイクル法実施

2001

「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」実施

 

表1から明らかなように、ここ数年の動きが特に活発で、様々な法律が制定・実施されます。CSN #109(各国のダイオキシン類排出量の目録)で述べましたように、ダイオキシン類の問題においても廃棄物問題は深刻であり、一刻も早い有効な対策が必要とされています。 

不要になったプラスチック製品は、1)廃棄物として焼却される、2)リサイクルにより再利用される、3)リユース(例えば容器として回収したPETボトルを洗浄、再充填して利用する)などにより処理されます。プラスチック製品は、原材料及び樹脂の種類、製品の形状、製品構成、使用用途が非常に多岐にわたっているので、3)のリユースができるプラスチック製品は、PETボトルなどごくわずかに限られます。そのため、リサイクル技術が最も重要で、様々な方法が検討されています。図1にその流れを、表2にその概要示します。 

*廃棄物を燃焼してエネルギー回収するサーマルリサイクルは、図1から省いています。概要は表2に示しました。

 

2 リサイクル方法の種類と概要

リサイクル方法の種類

特徴と問題点

マテリアルリサイクル

化学的変化を伴わず、破砕粉砕などしてペレットを作成し、原料として再利用する。しかしバージン(新品)原料と比較すると、品質劣化は避けられない。また、繰り返しリサイクルし、再生不能となった場合、最終的には廃棄物となる。

ケミカルリサイクル

樹脂を熱分解や加水分解で化学原料に戻して、原料として再利用する。つまり再資源化である。原料としての回収率がどこまで上げられるかということと、分解副産物の処理が課題である。

フューエルリサイクル

熱分解などで樹脂を油化(油に戻す)し、燃料油、ガス、高炉還元剤として利用する。ケミカルリサイクルと同様に、回収率と分解副産物の問題がある。

サーマルリサイクル

ごみ発電などの燃料として再利用する。燃料として排出される廃棄物の状態(ラベル、不純物、着色、結晶化度)が一定でないので、高エネルギー回収率が期待できない。また、排出ガスや焼却残灰が発生し、昨今のごみの焼却に関する問題が含まれる。

昨今のプラスチックリサイクルの課題は、回収してリサイクルした製品の利用先がなかなか確保できないことにあります。ですから、どこまで原料近くに戻せるかが大きなポイントとなります。このことについて、PETボトルを例に用いて説明すると表3のようになります。 

3 PETボトルのリサイクル方法と再利用用途

リサイクル方法

概要

再利用用途

リユース

洗浄、最充填でPETボトルとして利用

PETボトル

マテリアルリサイクル

粉砕して再度成形加工して再利用

衣料繊維、シート、化粧品や洗剤の容器、台所用水切り袋、、換気扇フィルター、クリアファイル、その他成型品。

ケミカルリサイクル

樹脂を分解してテレフタル酸とエチレングリコール原料に戻して再利用

再度PETを合成できるため、あらゆるPET製品に再利用できる。また、テレフタル酸やエチレングリコールを他の樹脂原料として利用できる。

フューエルリサイクル

石油、ナフサなどの油に戻して再利用

様々な石油製品やプラスチックなどの化学製品に利用できる。

3から明らかなように、どこまで原料近くに戻せるかで、再利用用途の大きさが大きく異なります。そこでリサイクル技術としては、ケミカルリサイクルやフューエルリサイクルは重要な技術です。 

最近、これらのプラスチックのケミカルリサイクル技術に関する最新技術の状況が、国内のプラスチック雑誌「プラスチックス」199911月号で報告されました。そこで、その概要を紹介します。ケミカルリサイクルが可能なプラスチックは、熱分解によって分解できるポリスチレン、ポリメチルメタクリレート樹脂(最も汎用に用いられるアクリル樹脂)と、加水分解できるPET(ポリエチレンテレフタレート)、ナイロンなど限られています。今回は、ポリメリルメタクリレートとPETを取り上げます。また、最後にパソコンの筐体などに用いられている難燃性プラスチックの油化技術について紹介します。 

 

1) ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂のケミカルリサイクル技術[2]

ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂は、高い透明性、重厚感、耐候性を有するため、ランプカバーやメーターカバーなどの自動車部品、カーポートの屋根などの住宅資材、様々な電気機器のカバーやパネルに用いられており、総生産量が約60万トン/年と推定されています。ポリメチルメタクリレート樹脂は、熱分解温度が330であり、すでに一部工業的にスクラップを熱分解し、ケミカルリサイクルが実施されています。 

しかしこれまでのプロセスでは、品質、安全性、操作性などに問題があったため、新しい技術が登場しています。この技術は、二軸押出機を用いたプロセスで、加熱された押出機内でスクリューを用いて進みながらポリメチルメタクリレート樹脂が分解されます。そして粗モノマー(不純物などを含んだアクリル原料)と熱分解残留物に分けられます。粗モノマーは、沸点の違いを利用して分離精製され、精製モノマー(もとのPMMA原料などのアクリル原料)が得られます。 

得られた精製モノマーの純度は95%以上と高く、再度ポリメチルメタクリレートを製造し、強度試験をした結果、再利用できることが確認されています。

 

2)PETボトルのケミカルリサイクル[3]

PETボトル用の原料は、1991年約10万トンに対し、1998年約35万トンに増加し、年間約60億本のPETボトルが使用されています。1998年の回収率が16.8%であり、1999年度の回収率の計画が18.1%で、その他はほとんど廃棄物として焼却されています。そのため、さらなる回収率の向上が必要となっています。 

PETボトルのケミカルリサイクル法は、現在2種類採用されています。1つは、溶融したPETボトルとメタノールを混合し、200度前後で加水分解するメタノリス法です。もう1つは、過剰のエチレングリコールで分解するグリコリシス法です。 

メタノリス法は原料の99%が回収できる高回収率法であり、アメリカでは数社が実際に商業化しています。また数社の飲料メーカーは、ケミカルリサイクルを行った原料から再生したPETボトルを利用し始めています。ケミカルリサイクルによる再生PET25%使用したPETボトルは、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を得ています。 

PETボトルを回収し、粉砕、洗浄などを行ったペレット原料を用いてマテリアルリサイクルを行ったPETボトルは、飲料ボトルとしてFDAの認可を得ることが困難なので、使用できる用途が限られます。この点は、先ほど述べたできるだけ原料近くまで戻すケミカルリサイクルのメリットがよくわかります。

 

3)難燃性プラスチックの油化技術[3]

パソコンの筐体に使われている樹脂や、半導体チップなどのプラスチック材料は、難燃性(燃えにくい性質)を付与するために難燃剤が含まれています。難燃剤としては、塩素や臭素を含むハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤が用いられています。しかしながら、ハロゲン系難燃剤は廃棄物として焼却される際に発生する有害化学物質、リン系難燃剤では、処分場で排出するリン化合物による環境汚染問題があり、最近では新たな難燃剤の開発が行われています。そのような中、1998年に国内の大手パソコンメーカーは、シリコン微粒子を配合した難燃性プラスチックを開発しました。 

このような難燃性プラスチックは、燃えにくくするために含まれている難燃剤の影響で、使用後のリサイクルが困難でした。通産省 資源環境技術総合研究所は、水素を出しやすい液体と活性炭のような炭素材を触媒として用い、パソコンの筐体を約380-400度の温度で油化(油に分解)する技術を開発しました。臭素系難燃剤を含むプラスチックで実験した結果、懸念される臭素化ダイオキシンの生成がないことも確認されており、パソコンなど寿命が短いプラスチック製品の廃棄物から排出される、廃プラスチックのリサイクルによる資源有効活用に期待できます。 

 

これまでケミカルリサイクルの最新技術についてお話しました。しかし、プラスチックリサイクル全体を考えた場合、ケミカルリサイクルが最良とは言えません。プロセスの安全性、有害排出物の有無、回収率、品質、コストなど全体を考えて、それぞれの製品に応じたリサイクル方法を考えなければなりません。表4に、佐伯康治さんが試算したプラスチックリサイクルのコスト試算表を示します[1]

4から明らかなように、新品価格より再生品の価格がかなり高くなっています。今後は、このコストの差額を負担する社会的ルールの確立が必要です。 

4 プラスチックリサイクルのコスト試算(単位:円/kg

リサイクルの種類と製品

再生処理

コスト

回収コスト

再生品

合計価格

新品価格

分別回収-マテリアルリサイクル

発泡ポリスチレントレイ
1,000トン/年

150

200-400

350-550

150
(ポリスチレン)

塩ビ製卵パック
1,000トン/年

80

100-200

180-280

100
(塩ビ)

PETボトル
10,000トン/年

120

200-500

320-620

200
PET

フューエルリサイクル

熱分解油化・ガス化
10,000トン/年

50-80

200

250-280

25
A重油)

高炉還元剤
10,000トン/年

30-40

200

230-240

5
(微粉炭)

これからの製品は、持続可能で循環型である製品が求められます。リサイクル技術は、そのためにはとても重要な技術です。ケミカルリサイクル技術に関する研究は、既に製品化されているプラスチックに対してだけでなく、最初からケミカルリサイクル可能な材料を設計するために、基礎研究レベルで行われています。

6-ナイロンなど開環重合により得られるプラスチックは、酸触媒と溶剤を用いれば分解性を示すものがあります。東京工業大学 資源化学研究所では、開環重合で得られるプラスチックを中心に新規ケミカルリサイクル材料設計に関して研究を行い、多くの可能性を示しています[5]

 

循環型経済社会構築のためには、既に製品化されているプラスチックに対するリサイクル技術の開発だけでなく、最初からリサイクルを考慮したプラスチック技術の開発と、そのような製品への置き換えも重要です。リサイクル技術に関する研究開発は、今後さらなる発展が必要だと言えます。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] 佐伯康治、「循環型社会構築のための容器包装プラスティックリサイクル成功への課題」プラスチックス、Vol.50, No.11, p22-28, Nov. 1999 

[2] 小柳邦彦ら、「アクリル樹脂の連続ケミカルリサイクル技術の現況」プラスチックス、Vol.50, No.11, p53-57, Nov. 1999 

[3] 長谷川正、「最近のペットボトルのリサイクリング技術」プラスチックス、Vol.50, No.11, p58-64, Nov. 1999 

[4] 二多村 森、「難燃性プラスチックの水素化分解―パソコンボディーからの油分吸収―」通産省 資源環境技術総合研究所、大気圏環境保全部、励起化学研究室 

[5] 三田文雄、「開環重合を基盤とする新規ケミカルリサイクル材料の設計」日本接着学会誌、Vol.35, No.10, Oct. 1999


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