アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間(Part2)


2000116

CSN #160

アメリカでは健康的な室内空気質(IQA)に関わるプロジェクトとして、アメリカ環境保護庁(USEPA)室内環境部門、アメリカ肺協会(ALA)、アメリカ農務省(USDA)の支援のもとに、「The Healthy Indoor Air for America's Homes project」が19948月に発足しました[1]。このプロジェクトは、アメリカ国民が家庭内の室内空気質(IQA)問題に関する基本的知識を身に付け、理解を深めるための情報提供を目的として発足した中間的政府機関です。このプロジェクトは、ラドン、間接喫煙、喘息、鉛、燃焼ガス、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、カビ、ダニ、細菌、アスベストなどの室内空気質(IAQ)に影響する問題を取り上げています。 

このプロジェクトが200010月を「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month:アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間」と定め、各週ごとにテーマを設定してキャンペーンを展開しました[2]。前報では第1週のテーマである「間接喫煙と子供の健康対策週間」の概要について紹介しました。本報では第2週のテーマである「子供と喘息対策週間」の概要について紹介します。 

表1「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month」の各週テーマ

日程

テーマ

101-7

間接喫煙と子供の健康対策週間

108-14

子供と喘息対策週間

1015-21

ラドン対策週間

1022-28

室内空気質全般の意識週間

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の試算によると、1998年アメリカ合衆国において、約1,730万人の人々が喘息症状を有しています。1980年から1994年にかけて自己申告による喘息の有症率は、75%増加しました。そしてアメリカの子供たちにおいて喘息は、最も一般的な慢性疾患となっています。また、オーストラリア、ニュージーランド、英国では、アメリカ合衆国よりもさらに喘息の有症率が高いと報告されています[3][4] 

アメリカでは喘息による死亡者数が、年間約4,000人にものぼっています。子供に慢性的な症状を引き起こし、学校を長期間欠席する原因の1つにもなっています。そこでアメリカ環境保護庁は、Environmental justice環境正義」の観点から、全てのアメリカ国民が健康的な環境で生活を営む機会が得られるように、喘息の教育と予防を支援しています[2] 

アメリカ国立科学アカデミー学術研究会議(NRC)の報告[3]によると、感受性が高い人たちが喘息症状を悪化させる因子として、猫、ゴキブリ、イエダニ、犬、真菌、カビなどの生物的因子、乳幼児の間接喫煙(ETS)や窒素酸化物などの化学的因子をあげています[3][4]。また、「子供と喘息対策週間」でも喘息を悪化させる曝露因子として、車の排気ガス、工場の排出ガス、たばこの煙、花粉、動物や昆虫などのアレルゲンをあげています[2] 

そこで「子供の喘息対策週間」では、喘息症状を引き起こす汚染物を避ける、あるいは減らすための簡単な行動として、表2に示す行動をあげています。 

2 喘息症状を引き起こす汚染物を避ける、あるいは減らすための簡単な行動[2]をもとに作成)

場所

行動

屋外

  • 公共輸送機関の使用や自家用車の相乗りによって、車の排気ガスの排出が少なくなるよう努力する。
  • オゾン・二酸化硫黄・花粉などの濃度が高いときは、屋内で過ごすようにし、屋外では過度な運動を避ける。

家庭内

  • 喫煙を止め、喘息をもつ子供たちが絶対にたばこの煙を吸わないようにする。
  • 燃焼ガスや粒子状物質は喘息をもつ人たちの呼吸器系に影響を与えるので、開放型燃焼式の暖房器具が正常に動作しているかどうか確認する。フィルタ−を点検し、交換時期が過ぎている場合は交換する。コンロでの調理時やガスストーブ使用時は、排気装置を使用する。
  •   カビや細菌などの増殖を防ぐため、部屋の湿度を3050%に調整する。ダニ、動物のふけ、花粉などのアレルギー源が少なくなるよう、こまめに清掃する。

学校

  • 鳥やネズミなどにアレルギーを示す人もいるので、飼育かごは清潔にし、逃げ出さないようにする。
  • 実験室や美術室などで強い臭いがする化学物質は、喘息発症のリスクを増加させるので、十分な換気を行う。
  • 体育館、ロッカールーム、図書館などではほこりやカビに注意し、十分な換気を行い、3050%の範囲に湿度を調節する。

また、「子供の喘息対策週間」では、第2週のカレンダーとして、この期間中の行動を例示しています。表3に要約を示します。 

表3 第2週のカレンダーの要約[2]をもとに作成)

曜日

行動の要約

日曜日

間接喫煙は呼吸器系に刺激を与えるので、屋外で喫煙するよう約束する。

月曜日

喘息に関するケーブルテレビ番組を見る。また、ラジオ番組を聞き、地域の会合に出席する。(この期間中特別放送している。)

火曜日

喘息が発症したならば、室内の曝露因子(カビ、ほこり)の状況に関して、この期間中は毎日日記を付けること。そして喘息を悪化させる要因を含め、日常の自己管理方法について掛かり付けの医師に相談すること。室内空気汚染と喘息症状との間に関係があるようならば、その日記をもって掛かり付けの医師に相談すること。

水曜日

カビの増殖を防ぐため、室内湿度を30-50%に調節すること。水が漏れている配管がないかどうか確認し、漏れている場合は修理すること。

木曜日

ゴキブリの死骸の小片は喘息の引き金となる。ゴキブリが発生しないように、家の中を清潔にすること。

金曜日

ペットのふけ、尿、唾液は喘息の引き金となる。家族の誰かがペットアレルギーの場合は、家の中にペットを入れるかどうかよく考え、アレルギーの人とは引き離すこと。特に寝室にはペットを入れないこと。

土曜日

ダニは小さくて見えないが、マットレス、枕、カーペット、ベッドカバー、衣類、ぬいぐるみなどに住んでいる。ダニが喘息の原因ならば、マットレスや枕に防塵カバーを使うこと。シーツや枕カバーを熱い水で毎週洗濯し、ダニアレルゲンを少なくすること。ハウスダストが喘息の原因ならば、湿らせた布や掃除機を使って、カーペットや布地のカバーを掃除すること。

喘息の増加が室内空気汚染に原因があるかどうか、まだ十分にわかっておりません。しかしながら、いくつか関連性が示唆されている因子もあります[3][4]。「子供と喘息対策週間」での行動提案は、私たちが日常の生活において注意しなければならないことが、わかりやすく示されています。次回Part3では、「ラドン対策週間」について紹介します。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Healthy Indoor Air for America's Homes
http://www.montana.edu/wwwcxair/
 

[2] National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month
http://www.montana.edu/wwwcxair/oct_month.htm
 

[3] National Research Council(NRC),Clearing the Air: Asthma and Indoor Air Exposures, January 19 2000
438ページの報告書で、米国立科学アカデミープレスのサイトからオンラインで見ることができます。以下のアドレスに入り、OPEN BOOK (READ) をクリックして下さい。
http://books.nap.edu/catalog/9610.html
 

[4] Kenichi Azuma, 喘息と室内空気汚染, CSN #127, March 21 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/March2000/000321.htm


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