アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間(Part3)


20001113

CSN #161

アメリカでは健康的な室内空気質(IQA)に関わるプロジェクトとして、アメリカ環境保護庁(USEPA)室内環境部門、アメリカ肺協会(ALA)、アメリカ農務省(USDA)の支援のもとに、「The Healthy Indoor Air for America's Homes project」が19948月に発足しました[1]。このプロジェクトは、アメリカ国民が家庭内の室内空気質(IQA)問題に関する基本的知識を身に付け、理解を深めるための情報提供を目的として発足した中間的政府機関です。このプロジェクトは、ラドン、間接喫煙、喘息、鉛、燃焼ガス、一酸化炭素、ホルムアルデヒド、カビ、ダニ、細菌、アスベストなどの室内空気質(IAQ)に影響する問題を取り上げています。 

このプロジェクトが200010月を「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month:アメリカ国民の家庭内空気質対策意識月間」と定め、各週ごとにテーマを設定してキャンペーンを展開しました[2]。前報では第2週のテーマである「子供と喘息対策週間」の概要について紹介しました。本報では第3週のテーマである「ラドン対策週間」の概要について紹介します。 

表1「National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month」の各週テーマ

日程

テーマ

101-7

間接喫煙と子供の健康対策週間

108-14

子供と喘息対策週間

1015-21

ラドン対策週間

1022-28

室内空気質全般の意識週間

ラドン(ラジウム226の娘核種)は、室内空気汚染源の1つに挙げられている物質で、自然界に存在する自然放射性核種の1つです。常に発生源の表面から大気中に放出されている気体で、その濃度は屋外大気中で1立方メートル中に約5ベクレル(5Bq/m3)程度と言われています。土壌、岩石等の中で生成され、空気中に存在するので家屋の窓や扉を閉め切っておくと、ラドン濃度が高くなります[3] 

注)放射性崩壊において、放射性核種Aが崩壊して核種Bに変化する時、BをAの娘核種という。

伝統的な日本の木造住宅は、欧米の家屋に比べてラドン濃度は低く問題にならなかったのですが、最近の住宅はアルミサッシの普及などにより気密性が高くなっています。また、省エネルギー対策でさらに気密性の高い住宅が開発されています。そのため、住宅の敷地の地下土壌や、建材(コンクリート、石、土など)などの建築材料から放出され、室内に滞留するラドン濃度は通常屋外の約数倍から多いところでは数十倍高くなっていると言われています。そのため、日本の住宅のラドン濃度も欧米なみに高くなってきていると予想されています。1988年の国連科学委員会の報告書によると、室内空気中の世界平均値は40Bq/m3とされています[3] 

高濃度のラドンを含んだ空気を吸収した場合、その娘核種が気管支の分岐点や肺の内部に付着して、そこで壊変しながらα線(放射線)を放出することから、肺癌を引き起こす可能性があると言われています。ただし、自然の屋外濃度(5Bq/m3程度)ではほとんど問題ないと言われています[3] 

アメリカでは喫煙に続き、ラドン曝露が肺がん発症の第2番目の要因とされており、数百万人のアメリカ国民に対してラドン曝露による健康リスクがあると試算されています。そのためアメリカの家庭内空気質対策意識月間の「ラドン対策週間」では、アメリカ国民がそのことを理解し、ラドン濃度が高いと予想される場合には、アメリカ国民が室内ラドン濃度を測定しようとする認識を持つことが目的であるとしています。そしてそのための10のアイデアを示しています[2]。このなかには、ラドンに関するファクトシート(データ表)の入手、マスコミや自治体への問い合わせなどが含まれています。 

本報では、この中からラドン・ファクトシートの概要を紹介します。ラドン・ファクトシートには、ラドンとは何か、どこのあるのか、どのようにしてラドンが室内にはいってくるのか、どのような健康影響があるのか、あるいは測定方法や調査方法などが概説されています。 

 

ラドン・ファクトシートの概要[2]をもとに作成)

1)   ラドンとは何か

土壌、岩石、水の中に存在するウラン堆積物が発生源である無色・無臭の気体。大気中に放散されるラドンのレベルでは無害だが、室内で高濃度となった場合、有害となる可能性がある。ラドンはラジウムの放射性崩壊物であり、ラジウムはウランの放射性崩壊物である。ウランやラジウムは、ごくありふれた土壌の構成物である。 

2)   ラドンはどこにあるのか

室内で高濃度となる場合の主要な発生源は、周囲の土壌である。アメリカ環境保護庁(EPA)は、アメリカの家屋の15分の1が高いラドン濃度を有していると試算している。 

3)   室内への進入経路

家の中の空気が暖められた時、家の低い部分の気圧が低下する。そして家の周りや家の下の土壌から、床や壁の隙間などを通じて室内へ流れ込む。 

4)   ラドンによる健康影響

呼吸によって肺に侵入し、肺の内部に付着する。そしてそこで壊変しながらDNAを損傷するα線(放射線)を放出する。肺組織のDNA損傷は、肺がんの原因となる。 

5)   測定方法、調査方法

放射能を測定し、1リットルあたりのピコキューリー(pCi/L)で表される。アメリカ環境保護庁(EPA)とアメリカ疾病管理予防センター(CDC)による室内濃度推奨値は、4 pCi/L(108Bq/l)である。注)1ベクレル=27ピコキューリー 

アメリカ環境保護庁(EPA)のガイドラインに基いて開発されたラドン試験キット(多くは25ドル以下)を購入する。このキットは分析会社で販売している。測定箇所に規定日数ラドン検出器を設置した後、ラドン検出器を密封して分析会社へ郵送する。 

6)   ラドン処置にかかる費用と方法

状況に応じて異なるが、塗装工事や温水暖房装置などの一般工事とほぼ同じ。基礎の部分やその他の開放部の隙間を埋めることが基本。しかしアメリカ環境保護庁(EPA)は、シーリング剤やコーキング剤で隙間を埋めるだけの処置は推奨しない。それだけでは持続的な効果がなかったからである。多くの場合、配管と換気扇を使った減圧システムを使ってラドン濃度を低下させる。このシステムは、コンクリート製の床や基礎の下から室内にラドンが入ってくるのを防ぐ。 

 

日本ではあまり馴染みがないラドンですが、欧米では室内空気汚染の代表的な汚染因子です。今後、日本でも重要視される可能性があるかもしれません。ですから、知識として知っておいたほうが良いと思われます。次回最終Part4では、「室内空気質全般の意識週間」について紹介します。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Healthy Indoor Air for America's Homes
http://www.montana.edu/wwwcxair/
 

[2] National Home Indoor Air Quality Action & Awareness Month
http://www.montana.edu/wwwcxair/oct_month.htm
 

[3] Kenichi Azuma, ラドンによる室内空気汚染, CSN #056, May 25, 1999
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/May1999/990526.html


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