ホルムアルデヒドに対する室内空気質ガイドライン
−カリフォルニア州環境保護庁−
2001年9月17日
CSN #204
近年日本において、いわゆるシックハウス症候群、シックスクール症候群、化学物質過敏症など、目や鼻への刺激、頭痛、吐き気など、室内で体調不良を訴える人たちが顕在化してきており、大きな問題へと進展しています。これらの問題は、室内空気中の化学物質汚染との関連性が懸念され、室内空気質(Indoor Air Quality: IAQ)を改善するために、各方面でさまざまな取り組みが行われています。
室内空気中の化学物質汚染に対しては、世界保健機関(WHO)欧州事務局が古くから取り組んでおり、1987年にはじめて「空気質ガイドライン」を発表しました[1]。室内空気中の化学物質汚染において特に問題が大きいのは、合板等の接着剤から放散するホルムアルデヒドであり、1987年のWHO欧州事務局による空気質ガイドラインでは、0.1mg/m3のガイドラインが定められました[1]。
日本では、1997年に厚生省(2001年から厚生労働省)の専門委員会がホルムアルデヒドの室内濃度指針値を検討し、WHO欧州事務局と同じ0.1mg/m3を提案しました[2]。それ以降、厚生省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会によって、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホスなどの室内濃度指針値が策定され、最終的にはおそよ50種類の化学物質の室内濃度指針値が策定される予定となっています[3][4][5]。
一方、アメリカでは室内空気質に対する取り組みは日本よりも早くから行われており、アメリカ環境保護庁のホームページには、関連する情報が豊富に掲載されています。また、各州レベルでの取り組みも活発であり、特にカリフォルニア州環境保護庁では、曝露への対策を含めたガイドラインが公表されています[6]。表1にその概要を示します。
表1 カリフォルニア州環境保護庁の室内空気質ガイドライン([6]をもとに作成)
内容 |
タイトル |
公表年月 |
ガイドライン No. 1 |
家庭におけるホルムアルデヒド |
1991年9月 |
ガイドライン No. 2 |
家庭における燃焼汚染物質 |
1994年3月 |
ガイドライン No. 3 |
家庭における塩素系化学物質 |
2001年5月 |
FAQ(よくある質問) |
家庭用空気清浄機 |
2000年4月28日 |
小冊子 |
室内空気汚染の削減 |
2001年5月2日 |
本報から、表1に示すガイドラインや小冊子の概要をシリーズで紹介します。本報では第1回目として、ガイドラインNo. 1「家庭におけるホルムアルデヒド:Formaldehyde in the home」[7]の概要を紹介します。室内空気質に対するガイドラインや対策マニュアルは、国内外で多数存在します。カリフォルニア州環境保護庁のガイドラインは、基本的なことが簡潔にわかりやすくまとめられています。一般の人たちが理解するための入門書として、ご参考いただければと思っております。
主にこのガイドラインでは、1)ホルムアルデヒドの特徴と健康、2)家庭におけるホルムアルデヒドの発生源、3)室内濃度のガイドライン、4)ホルムアルデヒドへの曝露を削減する方法について概説しています。それぞれの概要を次に示します。
1) ホルムアルデヒドの特徴と健康
2) 家庭におけるホルムアルデヒドの発生源
3) 室内濃度のガイドライン
ホルムアルデヒドの室内濃度に対しては、カリフォルニア州健康サービス局等の調査研究に基づいて、表2に示すガイドラインが定められています。
表2 ホルムアルデヒドに対する室内濃度のガイドライン([7]をもとに作成)
分類 |
室内濃度 |
目的 |
アクションレベル |
0.10ppm |
症状がなくてもホルムアルデヒド濃度を低減させるよう行動すべき |
ターゲットレベル |
0.05ppm以下 |
削減すべき目標値 |
*発がん性のリスクを考慮すれば、絶対に安全と考えられる濃度はない。そのため、実行できる限り低い濃度に削減するよう努力すべき
4) ホルムアルデヒドへの曝露を削減する方法
a) 建材
最も効果的な方法は、合板、中質繊維板、パーティクルボードなど、ホルムアルデヒドを放散する木材製品の使用を避けること。また、常にそれが可能であるとは限らないので、その場合は、低ホルムアルデヒド放散量に分類される木材製品を使用すること。
*日本では、合板等に対して日本農林規格(JAS)、パーティクルボード等に対して日本工業規格(JIS)でホルムアルデヒドの排出量に応じた分類が行われています[8]。ただし、これらの材料で組み立てられた家具などの製品に対しては分類がありません。
b) 家具
一般に木製家具では、ホルムアルデヒドの放散量が多い合板等が使用されていることが多い。そのため木製家具を購入する場合、ホルムアルデヒドの放散量が極力少ない部材を使用した製品を購入すること。また、購入して家に持ち込む前に、新しい家具の空気を入れ換えるよう販売店に要求すること。それができなければ、数日から数週間、自宅のガレージ等で空気を入れ換えること。
ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、厚手のフィルム等で撥水仕上げ処理を行った合板等は、処理を行っていない合板等に比べ、ホルムアルデヒドの放散量が一般的に少ない。それらの処理は、家具の全ての表面(端部を含む)に対して多層処理または厚塗りされるべきであり、換気の良い場所で処理を行い、数週間空気を入れ換えること。
c) 新鮮な空気
特に気温が高い時期はなおさらであるが、換気を行うこと。家屋の新築または改築時は、新鮮な空気を取り入れる換気システムの導入を検討すること。部屋の温度が高いとホルムアルデヒドの放散量が増加するので、窓を開けることができない時は、部屋の温度を適度に冷やすこと。
d) 湿度の低減
湿度の増加とともにホルムアルデヒドの放散量は増加するので、湿度を低下させることは、ホルムアルデヒド濃度の低下に寄与する。調理中はキッチンの換気装置を作動させ、部屋の湿度を低下させること。シャワーや入浴中は、浴室の窓を開けて換気装置を作動させること。エアコンの使用も、部屋の湿度を低下させることができる。湿度の高い地域に住んでいるのであれば、除湿器を使用したほうがよいであろう。
ホルムアルデヒド濃度を低減させるための対策は、他の室内空気汚染物質の低減にも寄与します。私たちは、生活時間の約9割を室内で過ごしており、そのうちの約7〜8割を家屋の中で過ごしています[9]。私たちにとって、室内の空気が快適で健康的であるように、できる限り室内の空気汚染物質を低減させることが大切です。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1]WHO Regional Office for Europe, “Air quality guidelines for Europe”, WHO Regional Publications, European Series, No. 23, 1987
[2]厚生省生活衛生局企画課,「快適で健康的な住宅に関する検討会議:健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会報告書(要旨)」, June 13, 1997
[3]厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室,「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第1回〜第3回のまとめについて」, June 29, 2000
[4]厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室,「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第4回〜第5回のまとめについて」, December 22, 2000
[5]厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室,「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第6回〜第7回のまとめについて」, July 24, 2001
[6] A department
of the California Environmental Protection Agency, The California Air Resources
Board (ARB), “Indoor Air Quality and Personal Exposure Assessment Program”
http://www.arb.ca.gov/research/indoor/indoor.htm
[7] The California Air Resources Board (ARB), “Formaldehyde in the Home - Guideline No. 1”, September 1991
[8] Kenichi Azuma,「低ホルムアルデヒド仕様の室内におけるIAQ」, CSN #158, October 23, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Oct2000/001023.htm
[9]塩津弥佳,他3名,日本建築学会計画系論文集, No. 511, pp45-52, 1998