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世論調査と新聞報道

 厚生省のまとめた平成9年の「結婚と出産に関する全国調査」(出生動向基本調査)の結果が報道されました(産経新聞6月7日朝刊)。この種の調査の記事のたびに感じることですが、アンケートの全体像が分かりません。全部でいくつのどういう質問をしたのか、どういう回答の選択肢があったのか、質問票の内容が分かりません。その結果はどうだったのか、どういう答えが何パーセントであったのかも分かりません。断片的に、質問の内容と、それ対する回答率が出ているだけです。そして質問と回答の数字の後に、解説風のコメントがありますが、これは厚生省が発表した解説なのか、新聞社の解説なのかもよく分かりません。そして、そのコメントにはどういう根拠があるのかも疑問に思います。たとえば「妻が年上」の割合が増えたことの理由の一つとして、「家庭内での役割分担にもこだわらない男性が増えたこと」が挙げられていますが、何か根拠があるのでしょうか。厚生省の担当者の推測なのでしょうか。それとも新聞社の推測なのでしょうか。

 次に、「理由として@子育てにお金がかかる(37%)B教育にお金がかかる(33.8%)C高齢で産むのがいや(33.5%)などを挙げている」と書いてあります。「理由として」といっても、何の理由のことか記事だけでははっきりしませんが、27面にある関連記事「今時の結婚」の中では、河野さんという女医さんは「経済的なこともあるでしょうが、働く女性には特に産みにくい状況になっている。私も保育所が整備されていたら三人目がほしかった・・・・」とアンケートの結果と全く別のことをいっています。アンケートの対象者には「働く女性」は含まれていなかったのでしょうか。また、河野さんは「以前は三人以上産みたいという声が非常に多かったが、今は二人でいいとか一人でおしまいが圧倒的」とも言っていますが、アンケート結果では「理想の子ども数は平均2.53人、予定の子ども数は平均2.17人」でこれも一致しません。アンケートの関連記事としながら、全く別の内容を記事に書くのは、アンケートの誤用と言うより、悪用になるのではないでしょうか。

 新聞社の見方は一つの見方であって、報道である記事と新聞社の見方である解説ははっきり分けていただきたいと思います。アンケート結果から何をどう読みとるかは、基本的には読者がすることです。アンケートの全体像を明らかにしないで、つまみ食いのように一部のみを解説つきで報道するのは、正確な報道とは言いがたいものがあります。
 このような厚生省の調査にも疑問を感じます。妻からの回答だけで調査目的は達成できるのでしょうか。この調査の名称には、女性だけを対象にしたアンケートであることを明記すべきだと思います。

平成10年6月7日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      A目次へ