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新聞業界の独禁法逃れ、いつまで続く“子供だまし”の論理

 2月20日の読売新聞は、「新聞の特殊指定 活字文化の維持・振興に欠かせぬ」と言う見出しの社説で、次のように論じていました。
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 新聞の特殊指定が廃止・縮小された場合、激しい販売競争が起きる可能性がある。同一の新聞なら、全国どこでも同じ価格で購入できる戸別配達システムが、大きく揺らぐ事態も起こり得よう。・・・
 新聞の特殊指定では、教材用などの例外を除いて、相手や地域によって異なる定価をつけることを禁止している。乱売合戦が起き、「社会の公器」である新聞の経営基盤が不安定化するのは望ましくない、との考え方が背景にある。・・・
 再販制度と特殊指定は車の両輪だ。一体となって宅配制度を支えている。特殊指定が失われれば、再販制度の維持にも支障が出かねない。・・・
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 さて、「乱売合戦」とは何でしょうか。「社会の公器」とは何でしょうか。

 スーパーや家電量販店は、日夜激烈な価格競争に明け暮れています。メーカーを巻き込んだ価格競争の結果、液晶テレビは価格がどんどん下がっています。これらは皆「乱売合戦」というのでしょうか。乱売合戦の末小売店の中には閉店に追い込まれるところも出てきますが、これらは皆好ましからざる結果なのでしょうか。家電業界にも乱売合戦を防ぐ「特殊指定」が必要なのでしょうか。それとも、家電業界は「社会の公器」ではないからどうなってもかまわないのでしょうか。

 それでは一体、社会の公器とは何なのでしょうか。昔は銀行の預金金利は統制されていて各行横並びの時代が長く続きました。やがて、横並びは消費者の利益に反すると認識されて、自由化が進みました。その結果競争が激化し、金融機関の中には経営が行き詰まるところも出てきました。店舗が統合され地域によっては消費者に不便な結果にもなりました。これらは、みな乱売合戦による好ましからざる結果と言うことになるのでしょうか。そして、銀行業界にも「特殊指定」が必要という議論になるのでしょうか。それとも銀行は社会の公器ではないのでしょうか。新聞業界だけが「社会の公器」なのでしょうか。それには何か根拠があるのでしょうか。

 先般、防衛施設庁の官製談合が摘発されました。防衛施設庁の発注する工事は、公益性が極めて高いと言えますから、これらの工事を施工する工事業者の選定に当たっても、「乱売合戦」により工事の質が低下する事のないよう、競争入札を排除することが有益と言うことになるのでしょうか。
 読売新聞の主張は市場経済の原則・経験則に反することばかりです。

 読売新聞はいつものごとく、再販制度や特殊指定を廃止すると宅配がなくなるかのような議論を展開していますが、宅配と全国均一料金とは全く別の問題です。全国均一料金でないと宅配が成り立たないという根拠はどこにもありません。新聞業界以外にも牛乳とかピザとか宅配をしている業界がありますが、再販と特殊指定で独禁法を逃れているのは新聞業界だけです。
 多くの読者が宅配の存続を望み、新聞業界も存続を望んでいるのなら、宅配がなくなるはずがありません。再販と特殊指定を廃止すると競争が激化し宅配制度がなくなるというのは、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の、はなはだ非論理的な主張であり読者に対する脅迫だと思います。

 「乱売合戦」とか「社会の公器」、「活字文化」などの意味不明な言葉を使い、かつ、再販と特殊指定がなくなると宅配がなくなるかのような根拠のない主張をして、独禁法逃れを正当化する彼らの稚拙な論理は“子供だまし”という他はありません。

  価格競争も、品質の競争もせず、ひたすら「押し売りの腕力」で競争相手をねじ伏せるという、消費者不在、読者の利益とは無縁の競争を繰り広げているのが新聞業界です。こういう消費者に無益な競争を繰り広げている現状こそ「乱売合戦」と言うにふさわしいものです。そして、新聞業界がこういう歪んだ競争に血道を上げるのは、価格競争というまっとうな競争が禁じられているからに他なりません。

 再販・特殊指定の廃止は新聞業界に競争原理を導入する第一歩となります。そして、ひとたび価格競争が導入されれば、それは必然的に中身の競争を誘発します。偏向新聞が淘汰されることは確実です。新聞業界に他の業界と差別することなく独禁法を適用することは、日本の民主主義の大きな第一歩になると思います。


平成18年3月11日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ