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新聞の再販・特殊指定はなぜいけないか

 新聞業界は、政治家や地方議会を抱き込んで、再販・特殊指定の維持に必死です。彼らは、なぜこれほどまでに再販・特殊指定に執着するのでしょうか。
 それは、彼ら新聞メーカーは、「メーカーによる流通の支配」を維持しようとしてからだと思います。

 かつて家電業界は、メーカーの意向に反した値引き販売をする小売店に対して、出荷停止をするなどメーカーが強い立場にありました。そして、家電販売店の多くはメーカーにより系列化されていました。そのような市場環境の元で、全国に「ナショナル」の看板を出し、ナショナルの製品しか扱わない小売店が増えました。松下電器は家電業界で優位なシェアを占めていました。しかし、それは必ずしも、ナショナルの製品が高性能・低価格で、消費者の圧倒的な支持を得たことを意味していませんでした。流通を支配したものが市場を支配するという状況になって行ったのです。これは、今の新聞販売をめぐる市場の環境と非常によく似ていると思います。

 やがて、独禁法が強化され、再販価格(小売価格)拘束は違法とされ、家電メーカーは価格支配権を失いました。家電製品の価格競争が激化し、それに伴って全国で家電量販店の勢力が増し、小規模小売店は淘汰され、系列は崩れていきました。消費者は量販店で様々なメーカーの製品を見比べ、店員からどの製品がいいのか説明を受け、低価格で購入できるようになりました。

 メーカー系列の小売店中心の流通から量販店中心の流通へ移行したことは、消費者の利益になったといえると思います。街角にあった小規模の電気屋さんがなくなり、遠くの量販店まで買いに行かなければならなくなったことは、「デメリット」と言えばデメリットでしょうが、様々なメーカーの製品を見比べながら低価格で購入できるというメリットは、そのデメリットを補って余りあると言うべきだと思います。

 新聞のメーカーである新聞社は、再販・特殊指定をなくすと宅配がなくなるかのように言っていますが、これには何の根拠もありません。確かに競争が激化すれば、販売店の中に敗者は出てきますが、敗者がいれば必ず勝者がいるのです。全員が負けると言うことはあり得ません。新聞販売店を再販・特殊指定から解放し自由競争が始まれば、家電業界と同じように「新聞の量販店」が出現すると思います。大規模であらゆる新聞を取り扱う大企業が出現すると思います。新聞メーカーはそれを嫌っているのです。

 大規模な新聞量販店は新聞メーカーに対して、今よりも遙かに大きな発言力を持つようになるでしょう。新聞メーカーは価格決定権を失います。価格競争は激化します。そして、価格競争の激化は必然的に商品の中身の競争を誘発し促進します。競争が激化することは消費者にとって歓迎すべき事です。また、新聞の流通がメーカーの系列支配から解放されると言うことは、新聞業界への新規参入が容易になることを意味し、新聞の発行部数が販売網の強弱に支配されることがなくなることを意味します。

 現在の系列販売の原因すべてが、再販・特殊指定だけにあるとは言えませんが、再販・特殊指定がメーカーによる流通の支配、流通の系列下をもたらす主要な要因であることは間違いないと思います。そして、新聞メーカーの流通支配と、それによってもたらされる自由競争の制約が、わが国の言論の自由を大きく損なっていると思います。

平成18年4月11日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ