A131
市場経済の前提(規制緩和が失敗する原因)

 6月1日の産経新聞は、「タクシー料金算定方式見直しへ 物価安定政策会議、値上げ結論出ず」という見出しで、次のように報じていました。
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 国土交通省は31日、タクシー料金を改定する際の算定方式を見直す方針を固めた。東京地区のタクシー料金値上げについて議論した同日の物価安定政策会議(議長・堀内昭義中央大教授)が、現行方式の見直しを求めたため。会議では、業者の収益悪化や乗務員の低賃金は、タクシー台数の過剰などが原因と指摘され、値上げについては賛否両論のままだった。・・・
 規制緩和でタクシー台数が増えすぎ過当競争を生んで乗務員の賃金上昇を阻んでいるとの見方も強く、「過当競争のままでは引き上げ申請が繰り返されることになる」との懸念も示された。
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 また、5月28日の産経新聞は、
「タクシー参入規制強化過剰競争防ぐ緊急調整措置 適用地域を拡大へ」という見出しで、次のように報じていました。
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 国土交通省は、タクシーの新規参入に対する規制を強化する方向で検討に入った。参入を一部制限している道路運送法の「緊急調整措置」の適応要件を見直し、規制をかけやすくする。タクシー会社の新規参入や保有台数の規制が自由化され、業界内の競争が激化、運転手の労働条件悪化や安全確保にも問題が出始めたと判断、規制をかける条件を拡大する。
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 いったい何のための規制緩和だったのでしょうか。産経新聞は、「増えすぎ」とか、「過当競争」、などの言葉を安易に使っていますが、何が「適正」であるか、その根拠はあるのでしょうか。市場経済のもとでは、何が適正であるかは市場で消費者が決めることであって、新聞社や官庁が決めることではありません。

 もし、本当にタクシーの台数が過剰であるならば、運賃が高いか、あるいはサービスが劣悪な(たとえば事故が多い)タクシー業者から順番に、市場から淘汰されて消えて行くはずです。そして、いずれ適正な台数に落ち着くはずです。
 しかるにそれが起こらず、全事業者が同じ低水準で営業を続けているのは、消費者(タクシーの乗客)に対する、マスコミの情報の提供が不十分で、消費者の選択権が行使できない現実があるからだと思います。

 また、4月25日の読売新聞は、
「人気の格安ツアーバス 競争激化、安全置き去り『規則守った方が負け』」と題する解説記事で、次のように論じていました。
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 ・・・安い料金で人気を呼ぶツアーバス。しかし、交通関係の労働組合では「安全を図るための労働条件に問題のあるケースもある」と指摘している。(編集委員・左山政樹)・・・

 運輸関連の産業別労働組合が加盟する交運労協の坂本栄・事務局次長は「新規参入のバス会社は少しでも実績を上げたいので無理な注文を引き受け、路線バスも持つ既存の会社も、閑散期などに採算割れ覚悟で受注することがある。繁忙期に観光バスの仕事を取りやすくしたいからです」と実情を明かす。・・・

 交運労協では、「これらの競争はバス運転手の労働条件を切りつめて実現している」という。燃料や車体維持のコストは変わらないため、労働時間の延長やパート・契約運転手の導入などで節約を図る以外に手がないからだ。・・・

 私鉄、バスの労組で組織する私鉄総連の宮下正美委員長は「加盟組合は、運転手、利用者の安全を考えた労使協定を結んでいるが、新規参入組には労組のない会社も多い。労働条件を告示通りまじめに守った会社が競争に負けて後退を強いられるわけです。規制を元に戻せとまでは言わないが、どうにも納得がいかない」と話している。
 安全を損なってまでの競争なら見直しも必要だろう。・・・
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 ここでも新聞社は、安易な規制強化の主張をしています。観光バス事業の規制緩和は、運賃の下落という点で、消費者に多大な恩恵をもたらしたはずですが、読売新聞は労働組合の取材をするだけで、消費者の声に耳を傾けようとする姿勢がありません。

 読売新聞は労働組合幹部を取材して回る暇があったら、消費者対して安全で格安なバス会社はどこか、運転手が過労気味で危険なバス会社はどこかの情報を提供し、料金の高いバス会社と、運転手の労務管理が悪くて危険なバス会社の市場からの撤退を促すべきです。それがマスコミの役割です。
 彼らがそれをしないから規制緩和が健全な競争に結びつかず、競争が歪み、危険なバス会社が市場に生き残り、再び規制強化をもくろむ官に格好の口実を与える結果になっているのです。

 市場経済が健全に機能するためには、消費者が商品を選択するに必要な情報提供に不足がないことが絶対条件です。
新聞が消費者が必要とする情報を提供していない、これが規制緩和が失敗する原因です。

平成19年6月3日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   目次へ